浜口炎ヘッドコーチ(HC)は、9シーズンにわたって指揮を執った京都ハンナリーズを昨季限りで離れ、今季から富山グラウジーズを率いる。京都を退団する際に、クラブから発行されたリリースにあった退任理由は「辞任」。
つまりは、今季以降も京都との契約期間を残しながら、浜口HCは自ら身を引いたのだ。そこにあるのは、京都のチーム作りに対するスタンスの変化。新型コロナ禍にあって、今季以降も厳しいクラブ経営が予想される。当面は勝つことより、クラブを存続させることに軸足を置く。今季の京都のチーム編成を俯瞰すると、筆者の目にはそれが透けて見えるように映る。
「お互いに話し合いを重ねましたし、京都を離れることに対して、わだかまりのような感情はありませんでした。京都は新しいGMが来たりと、新しい体制になっていった。お互いにとって新しくするのに、いいタイミングだったと思います」(浜口HC、以下同)
京都を退団することが決まると、すぐに複数のクラブからオファーが届いた。そのなかから選んだのは、一昨季に初のチャンピオンシップ(CS)出場を果たし、昨季はシーズンが途中で終了したが、それまでCS出場権にあと一歩の中地区3位と一段の進境を示す富山。
「富山は僕が就任する前にメンバーが決まっていて、選手のラインナップがすごく魅力的だなと思いました。クラブとの交渉のなかで『いい指導者がいたら、このチームはもっと良くなる』と熱心に誘っていただいた言葉も響きましたし、選手の顔ぶれを見てもその通り。ここで自分がHCをしたら、どうなるんだろうとワクワクしました」
7月中旬から、チーム練習を開始。実際に自分の目で選手の動きを見て、浜口HCの胸はさらに弾んだ。
「すごく個性を持った選手たちが集まっているなと、あらためて感じました。このチームの強みは、オフェンスですね。個人能力の高い選手が多くいます。それにグラウジーズは、自由に自分たちを表現できる雰囲気がある。これは、とてもいいところです。チーム内のルールや枠にハメてしまうコーチもいますが、僕は今のグラウジーズのいいところを残して、彼らの良さをさらに引き出し、そこに自分が持っているものを加える。そうしてステップアップしていけば、いい結果が出せるんじゃないかと思っています」
個性派揃いではあるが、浜口HCが選手に求めるのは個ではなく、チームで戦うこと。
「バスケットボールはプレーの細かなところまで数字で出るスポーツですが、ほかの選手のためにスクリーンをかけてあげるとか、数字に表れないプレーこそ大事しないといけない。タレントチームになるのではなく、ファンダメンタルな部分を追求してチームで勝つ。それが、僕の求めるものです。富山はクラブとして10年以上の歴史があって、今季もいい選手が揃っています。幸いにもイチからチームを作るような状態ではなく、今ある土台に、僕がやりたいバスケットボールを積み上げていくことができる。強豪が揃う東地区で、それをどう表現できるか。それに京都から富山へは旧知のスタッフを連れず、ひとりで来ました。それらを含めて、今回は僕にとっても新しい挑戦。楽しみが、いっぱいなんです」
新たな挑戦に、目を輝かせる浜口HC。だが次の瞬間、ふとその表情が曇った。