いつもどおりじゃないものを、いつもどおりに描くって難しい。そんなことを感じさせるBリーグの再開だった。
前日は20℃近くあったのに、また冬の寒さに後戻り。朝から降っていた雨が雪に変わるほどのホワイトデーにBリーグが再開された。しかも観客を入れずに。
理由は言うまでもなく、新型コロナウィルスである。日本はおろか、世界中で猛威を震い、WHOが「パンデミック」と認めるほどの拡大ぶりだ。
それでもリーグが再開を決断したからにはチームも従わないわけにはいかない。試合後の記者会見は当初予定されていた部屋が狭すぎる ── 記者の数が想定以上に多く、感染を助長するかもしれないと、急きょコートエンドに記者会見スペースを作り、記者はゴール裏の観客席に座るという措置が取られた。その席で千葉ジェッツふなばしの大野篤史ヘッドコーチは「お客さんがいる、いないよりも、この社会情勢の中でゲームをすることに……コンタクトの多いスポーツで、飛沫や汗が飛ぶスポーツを最初に再開してもいいのか。それを選手たちに『いいから、やれ』とは言えない。選手の気持ちも汲んでほしいなという気持ちもあります」と苦しい胸の内を語った。
選手もまた、いつもとは異なるアリーナに違和感を抱きながら、それでも懸命にプレーをしていた。
「やりにくかったというのが正直な感想。気持ちが高ぶる感じはいつもより……そういうことはあってはいけないのかもしれないけど、気持ちの持っていき方はすごく難しかった。ファンのみなさんが大勢見てくださるほうがモチベーションも上がるし……もちろんモチベーションは上げて臨みましたが、今振り返るとそういうところがやりにくかったかなと思います」
宇都宮ブレックスの比江島慎がそう振り返れば、千葉の富樫勇樹は無観客の違和感について、こう続いた。
「(違和感の要因は)ひとつではなく、全体の雰囲気も違いますし、試合中もシュートが入る、入らないを生み出すブーイングもそうですし、改めてプロのBリーグがたくさんのファンの方で作られているんだなと感じました」
違和感を抱いたのはコーチや選手、チームスタッフだけではない。アリーナ入りを許された我々もまたその場に立つと、無観客試合の違和感をどう伝えるべきか、迷ってしまう。プレーにフォーカスして伝えられることもあるのではないか。そう勇んでもみたが、頭はうまく働かない。試合後の彼らの言葉を待たずとも、どこかゲームがウィルスに支配されているように感じられたからだ。
目の前で繰り広げられる真剣勝負も、2人の日本代表が言うように、その場にファンがいてこそ、その完成形を見る。
むろん普段は聞けない音が聞こえる。そうした楽しさを見出すこともできるだろう。実際、宇都宮ベンチのすぐ近くにいると、佐々宜央サポートコーチの声がよく聞こえた。彼もまた新しい一歩を踏み出したのだなと嬉しく感じたが、それも今だけだ。彼の熱い声が毎回のように聞こえるようでは、新鮮味は薄れていく。彼の声をかき消すようなファンの声援があって、そのなかに彼の声を聞き取れたときこそが、何か自分だけの宝物を見つけたみたいで、楽しいのだ。佐々アシスタントコーチの声に限らない。選手の息づかい、ベンチからの指示、選手同士の言葉のやりとり。それらはすべてファンがいるからこそ、小生のような“変化球”を拾いたがるライターにとっては“ネタ”という名の宝物になる。
やはり現場に行くライターにとっても、アリーナのファンは欠かせない。
文・写真 三上太