先発ポイントガードとして迎えたルーキーシーズン
熊谷航は今シーズンもっとも重い荷物を背負ったルーキーかもしれない。荷物に貼られた札には『チームを勝たせる』という文字がある。今シーズンのシーホース三河は2年連続得点王に輝いたダバンテ・ガードナー、勝負強さに定評があるシューター川村卓也を獲得。リーグ屈指のスコアラー金丸晃輔、試合巧者のベテラン桜木ジェイアールにプラスされたこの大型補強は『超攻撃型チームの誕生』と注目を集めた。そこでクローズアップされたのが23歳のポイントガード熊谷である。特別指定選手となった大学4年の12月から経験は積んできたとはいえ、ルーキーの身で新生三河を牽引するのは並大抵のことではない。
「これだけどこからでも点が取れる選手がそろっていて、勝てなかったらポイントガードの責任だと言われるのは当然のことです。実際『ガードが若いからダメだ』と言う声も耳にしました。正直プレッシャーは大きかったです」
だが、熊谷には1つ信条にしていることがある。それは「苦しいときこそ成長できるチャンスだ」ということ。「ポイントガードとして感じている今のプレッシャーもこのあと必ず自分のためになるはずです。高校でも大学でも大変なことはいろいろあったけど、思えばそういうときほど成長できたような気がします。だから今は自分にとって大きなチャンス。プレッシャーがどんなに大きくても絶対負けたくありません」
大分県出身。両親はバスケット経験者で、父はミニバスのコーチも務めていた。7歳上の兄も4歳上の姉もバスケット部所属のバスケットファミリー。末っ子の熊谷もごくあたりまえのようにミニバスのクラブに入り、中学のころには「将来もバスケを続けたい」と考えるようになった。地元を離れ群馬県の前橋育英高校に進んだのも「強いチームで自分を磨いて全国の舞台に立ちたい」という思いからだ。武器としていたのはスピード。「中学のときはどちらかと言うと縦に走るのが速かったんですが、高校では一歩の速さ、瞬発力が身についたように思います。ポジションは状況によって1番(ポイントガード)、2番(シューティングガード)をやっていましたが、自分はパスが好きだったのでポイントガードにやりがいを感じていました」。そのころ自分の心の中で密かに思っていたことがある。
「たとえば試合で僕がすごくいいパスを出して、それがシュートにつながったとします。スタッツの上ではシュートを決めた選手に2点付きますけど、僕の中では1点はパスを出した自分の点だなと思うんです。だから1点は自分に付ける。心の中で勝手に付ける(笑)。高校ぐらいからそんなふうに考えるようになって、その1点が自分のモチベーションにもなりました」