プロ野球の楽天ゴールデンイーグルスを率いていた時代の野村克也監督(当時)がこんなことを言っていた。
「負けに不思議の負けなし。勝ちに不思議の勝ちあり」
たいていは負けたあと、名将の代名詞ともいうべき“ボヤキ”として出るフレーズのひとつだが、こちらの名将は勝ってボヤいた。
「奇跡だわ……今年は2回戦までだと思ってたもん……奇跡だよ、奇跡」
インカレ女子準々決勝、早稲田大学を破って、2年連続のベスト4進出を決めた愛知学泉大学の木村功コーチである。
不思議の勝ちということか。
早稲田大学は女子日本代表の中田珠未をはじめ、サイズで優位に立てるはずだった。しかし愛知学泉大学の徹底したボックスアウトと、積極的な飛び込みリバウンドになかなかイニシアチブを取りきれない。後半、高さを生かす場面も見られたが、大黒柱の中田をケガで欠いた直後だったこともあり、そこからの伸びはなかった。リバウンドが勝敗を分けた一番の要因だった。
スタッツを見ても、早稲田大学の41本に対し、愛知学泉大学は54本と上回っている。
ただコートに立つ選手たちの皮膚感覚は少し違うようだ。
「数字では勝っているかもしれませんが、コートの中でやっている感覚としては早稲田に取られているって感じでした」
そう振り返るのは愛知学泉大学 #3 岡田真那美である。
不思議だ。
端から見れば愛知学泉大学のボックスアウト、リバウンドは間違いなく早稲田大学を苦しめていたのに、本人たちはそう思っていない。
さらに不思議なことがあった。
それは岡田の、大会公式プログラムに書かれているポジションである。
彼女はこの試合で積極的に1対1を仕掛け、両チームトップの17得点をあげている。
愛知学泉大学に見たことのないスコアラーがいるぞ。
そう思って、大会公式プログラムをめくると「Shooting Guard(シューティングガード)」とある。3ポイントシュートはないが、なるほど1対1で得点を量産するタイプなんだな。
そう思って試合後の岡田に話を向けると、どうやら違うらしい。
「私、フォワードなんです。パワーフォワードか、スモールフォワード。私の仕事はリバウンドなんです……だから私もプログラムを見てビックリしました」
学連が間違えたのか、それともチームがあやまって登録したのか。
それはわからないが、ともあれ、岡田は根っからのスコアラーというわけではなさそうだ。
「いえ、普段もシュートは結構打ちますけど、一人では何もできなくて、みんなからパスをもらって攻めています」
つまり彼女は合わせの動きから得点を量産するタイプなのだ。