コミュニケーションの選択肢に迷う新キャプテン
小学校のときに塩焼ミニからバスケットをはじめた山本千夏選手だが、これまでキャプテンを任された経験はない。コート上での初キャプテンの振る舞いを見れば、率先して仲間たちに声をかけたり、チームをまとめる姿も板についてきた。そう感じたことを率直に伝えたら、「本当!うれしい」と笑顔を見せる。裏を返せば、まだまだ不安であり、試行錯誤の日々が続いていることを察する。
「今は若い選手が多いので教えなければいけないことも多く、厳しいことを言わなければいけないけどその度が過ぎてはいけない。その間がすごく難しい」とコミュニケーションにおける選択肢に迷っていた。考えすぎてしまうと、自分自身が何をすべきか分からなくなるスパイラルに陥る。日頃から一緒に過ごし、同じゴールを目指す仲間であっても、キャプテンはそこまで気を遣わなければならないようだ。
「日々、言い過ぎて『しまった!』と思ったり、自分から言わなかったことで緊張感がなくなり『あぁ〜』とも思ってしまいます。本当に難しいですね」
世の管理職の方々や、キャプテンを任されはじめた選手たちにとっては共感する部分も多いことだろう。
前節のシャンソン化粧品シャンソンVマジック戦では2連敗を喫した。初戦に敗れた後、「ゲーム展開がきつかったときに自分からあまり言うことができませんでした」と反省している。その試合は36分間出場(翌11月5日は37分出場)し、今シーズン最長だったこともあり、「体力が削られて、自分自身がきつかった」そうだ。
「少しでも流れが自分たちに傾いたときに最後まで引き寄せることができなかったのは反省点であり、自分のリーダーシップが足りなかったからです」
新キャプテンはもがきながら、チームも自分自身も前進させる道を探している。
「パスを狙いすぎている」と反省する現時点のアシスト王
平均9.2本(11/5現在)、アシストランキングでぶっちぎりのトップにいる町田瑠唯選手。その状況について、「昨シーズンよりもドライブで切っていって、パスをさばいていく意識は強く持っています。それで数が増えているのかな」と自己分析。アシストのルールが変わったことも少なからず影響はある。これまではパスを受けた選手がそのままシュートに行かなければカウントされなかったが、FIBAルールが改正されたことでペイントエリア内ではドリブルをしても許容されるように変更された(※注)。それでも2位の吉田亜沙美選手(JX-ENEOSサンフラワーズ)の6.6本より、大きく上回っている。
「リュウさん(吉田選手のコートネーム)はネオ(藤岡麻菜美選手のコートネーム)と二人で(出場時間を)分け合ってるからです。もし、私と同じくらい試合に出ていたら、リュウさんの方が絶対に上ですよ」
確かに町田選手に比べると、吉田選手の出場時間は半分程度だった。
数字だけを見れば、アシストが増えていることに変わりない。だが、その状況を納得していないのは町田選手自身だった。「パスを狙いすぎてしまい、一発目にシュートの選択ができていないために迷って打つことが多く、確率が悪くなっています」と本来描いているプレーではない。フィールドゴール成功率は31.9%と、昨シーズンの40.7%より大きく下回っている。平均7.4点は、昨シーズンの平均9.8点より2点少ない。
パスを狙ってしまう要因として篠原恵選手とともに、ルーキーの栗林未和選手の加入でインサイド陣が大きくなり、ボールを入れやすくなったと考えられることもできる。それでも町田選手は「昨シーズンの4アウト(4人がペイントエリアの外にいるシステム)ではなくなった分、インサイドに頼り切ってしまうことが多くなっています」とそれ自体を反省点として挙げた。
「インサイドで攻められなかったときこそドライブで切っていき、そこでチャンスを作るのも自分の役割です。良いシューターはたくさんいるので、そこをどれだけ使えるかが大事になります」
アシストランキングトップにいる町田選手だが、出てくる言葉は反省ばかり。動いてパスを出しながら流れを作ることができれば、自らゴールを狙える道も開かれる。
平均年齢27歳!最年少チームが持つべきチャレンジャー精神
日本代表活動のために町田選手がチームを離れている期間は長かった。それにより、「1番とは言わないですが、今はボールを運ぶ場面もあります。逆に4番(長岡萌映子選手→トヨタ自動車アンテロープス、三谷藍さん→引退)が抜けたことでその穴を埋めたり、役割が増えました。いろんな角度からプレーを見られるようになったのは良かった点です」と新キャプテンは、様々なポジションを任されることを前向きに捉え、プレーの幅を広げている。
一方でこの夏、山本選手自身は日本代表活動に参加できなかった。「これまではオフらしいオフもなかったけど、今シーズンはしっかり休んで、ちゃんとトレーニングができたので体の状態は良いです」とリフレッシュできたメリットを挙げる。キャプテンを任されたときから、チームとともに過ごす時間をたっぷり取れたプラス面の方が大きい。「自分がキャプテンになってこうしていきたいということをずっと言い続けられたのは良かったです」と浸透させていたのは、「チームで戦うこと」だった。
現状の課題についても、「チームとしてミスやイージーショットを落としているところを許してしまっている雰囲気がある」と答えたとおり、『チーム』を強調している。「チームがバラバラになりかけたときに自分がまとめられるようなキャプテンになっていきたいです」と理想を掲げ、迷いながらも大事にチームを作っている。
16年間在籍した三谷藍さんが引退したことで、優勝を経験したメンバーはもういない。また、2年目の小滝道仁ヘッドコーチも31歳とまだ若い。ヘッドコーチと選手を合わせた平均年齢を算出すれば、唯一の20代となる平均27歳。最年少チームである。富士通が積み上げてきた功績がプレッシャーに感じているかもしれない。だが、その重荷を一度下ろし、軽くなった状態で思いっきり戦うことも若いチームには必要だ。
負けても次があるレギュラーシーズンこそ、様々なことに全力で挑戦し、失敗しながら成長していくしかない。その中で新しい富士通のスタイルを見出し、それが確立したときこそ栄光の歴史にしっかりと積み上げれば良いだけだ。
次回、神奈川開催となるのは11月26日の皇后杯予選、翌12月2日は日立ハイテククーガーズとそれぞれトッケイセキュリティ平塚総合体育館で試合が行われる。成長の過程にいる今シーズンこそ、多くのファンの声援が必要である。
(※注)アシストの変更点
ペイントエリア内にいる選手へパスし、その後に複数回ドリブルをしても守られていなければパスした選手にアシストがつく。また、シュートモーションでファウルとなった場合でもフリースローが決まればアシストが記録されるなど、今シーズンよりアシストの解釈が大きく変わったことでその数が増える傾向にある。
文・写真 泉 誠一