チーム結成1年目、大会初出場で決勝の舞台に上がった広島ドラゴンフライズは今シーズン初の対戦となる日立サンロッカーズに66-81で敗れ、3つ目の‟初„優勝は叶わなかった。だが、初陣で成し遂げた準優勝は称えられるべきもの。佐古賢一HCが率いる若いチームは今大会をたくましく戦い、コートに清々しい風を吹かせた。
「佐古さんを信頼していますから。僕にも、みんなにも、この人に付いていけば大丈夫だという気持ちがあります」(平尾充庸キャプテン)
平尾の言葉をそのまま伝えると「本当ですか?選手にそう言ってもらえるのは嬉しい。今、1番嬉しいです」と佐古賢一HCは大きく破顔した。
今シーズンNBLに新参入した若いチームには竹内公輔を除き名立たるタレントはいない。主力として戦う田中成也(明治大卒)、柳川龍之介(白鷗大卒)、坂田央(日本大卒)、北川弘(日本体育大卒)は全てNBL1年目のルーキーたちだ。「経験値の高い移籍選手ではなく、新卒のルーキーを取らざる得なかった」というチーム事情もある。さらに言えば、大学界を代表するスーパールーキーに声をかけることも難しかった。
「でも、僕はそれでいいと思うんです。大学ぐらいまでだと190cm以上あって1人でなんでもこなせる選手がスーパースターになれるんだと思うし、それはそれでもちろん凄い魅力なんですけど、舞台がトップリーグになると、また話は変わってくる。僕は全てが平均値の選手より何かに突出した選手を作っていく方が重要だと考えています。だから、今回うちに誘ったのも特徴がはっきりしている選手。大学のプレーを見て、1つでいいから自分の持ち味がはっきりしている選手を選びました」
たとえば、田中成也ならシュート力。「パスとかドライブは付属のもので、たまたまできたるようなら行けばいい。あくまでも武器はシュート力なのだから、打たなかったら存在意味がない。打つことで自分の評価を上げていってほしいと思っています」
坂田央の場合は走力と当たりの強さ。「大学では4番ポジションで、本人はリバウンドとポストプレーしかやってませんと言ってましたが、いや、おまえがポストアップしてもハエ叩きされちゃうだけだからと(笑)これからはペリメーターに出なさいと言ったんです。でも、まだこれまでの名残りがあって、ゾーンされたりするとショートコーナーとかハイポストとかいろんなところに入りたがるんですよね。そのたびにしっかりコーナーまで出なさいと、これはもう繰り返し言ってますね」
柳川龍之介の魅力は力強いドライブとアグレッシブなディフェンス。「まだね、遠慮がありますね。だから、もっと思いきって行けと、自分を信じて好きにやっていいと、試合でもそう言ってコートに送り出してるんです」
北川弘の武器はスピードとディフェンスの粘り。「今の彼にはそれしか求めていません。でも、決勝戦では彼なりに一生懸命ゲームコントロールをしていた。僕から見たらあれはまだゲームコントロールの真似事ですけど(笑)。でも、いいんです。それが経験、そこからがスタートですから」
ルーキーたちに望むのは「自分の仕事が何であるかということを知って、それにしっかり向き合える選手になってほしい」ということ。
リーグ開幕当初はベンチからの指示に返事することしかできなかったルーキーたちが、今ではコートの上でいろんな言葉を発するようになった。
「たとえば自分の仕事ができなかったときは謝る、それに答える。小さな変化かもしれませんが、これはチームのケミストリーを構築する第一歩だと思っています。そういう姿を見ると、少しずつチームになってきてるなぁと感じるんです」
そんなルーキーたちの喜びが弾けたのは準決勝でトヨタ自動車アルバルク東京を破ったときだ。
「トヨタには同じルーキーでも田中大貴(東海大卒)、張本天傑(青山学院大卒)、宇都直輝(専修大卒)というスーパーエリートがいるじゃないですか。大学時代、宇都に勝ったことはあるけど、大貴と天傑には1度も勝ったことがない。だから、対戦が決まったときは一発食ってやろうじゃないかと気持ちがありました。トヨタに勝てたことは、ただ勝てただけじゃなくて、プラスαというか、今までなかった自信を得たような気がします」(柳川)
「やっぱり同じルーキーとして負けたくなかったし、俺たちは失うものはないんだから当たって砕けろだ!とみんなで話してました。だから、気持ちで負けることはなかったし、2点差で勝ち切ったときはほっんとに嬉しかったです」(坂田)
しかし、彼らは喜んでいるばかりではない。
「トヨタに勝てたことはいろんな意味で大きかったですが、トヨタを破ることで満足してしまったのが決勝の敗因にもなったのかなと思っています。もう一段階上、決勝で勝つことを目標にしないとチームがガス欠になってしまうというか。そういうことも含めて勉強になったことは多かったし、課題も見つかりました。課題が見つかったってことは自分がまだ伸びていけるってことです。上には上があるから負けないようにこれからも頑張ります」(田中)
インタビューに答える選手たちを見ながら、キャプテンの平尾が「うちのルーキーはみんなすごくまじめなんです」と一言。その平尾は、一昨年は休部したパナソニックトライアンズで、昨年は移籍した東芝ブレイブサンダースで優勝を経験したが、「どちらもプレータイムはほとんどなかったですから…。今年はスタートからコートに立つことができて、めちゃくちゃ楽しかったです。それといつもコート全体を見ている自分が、若手の成長を肌で感じられたことがすごく嬉しかった。うちには佐古さん、大野(篤史AC)さん、それに大黒柱の(竹内)公輔さんと、信頼できて頼りになる人が揃っていますから、自分はキャプテンとしてチームを牽引しながらも若手選手たちと一緒に成長していきたいと思っています」
今月末から後半戦がスタートするNBL。新春の大舞台で戦った経験をこれからにどう生かしていくのか?注目される広島ドラゴンフライズの戦いは1月21日対兵庫ストークスから始まる。
「うちは若いチーム。このシーズンが終わるまでに若い選手たちをいかにNBLのトッププレーヤーと同じモチベーションに持っていけるかがヘッドコーチとして1番大きな仕事だと思っています。新しいチームを指揮するのは難しい。でも、楽しい。のびしろのあるチームならなおのことです」
まっすぐ先を見据える佐古HCの言葉に迷いはなく、その顔は明るかった。
松原 貴実