Text & Photo by F.Mikami
直前に配布された資料のなかに、彼女の名前はなかった――。
5月13日におこなわれた「平成27年度バスケットボール女子日本代表チーム 日本代表候補選手」のリストに「大神雄子」の文字がなかったのだ。大神が日本代表を外れるのは平成14年度以来、実に13年ぶりのことだ。
代表チームを率いる内海知秀ヘッドコーチが言う。
「大神は経験豊富な選手であり、日本女子バスケット界の第一人者でもあります。しかし昨年1シーズン、プレイをしていないことがありますし、私自身、彼女をずっと見てきて、昨年の世界選手権では、体力面や技術面で少しずつ落ちていることが目に見えていました。一方、昨シーズンのWリーグを見ていくなかで、若い選手が伸びてきているところも見受けられていました。今年度の女子日本代表のスローガンの1つが『勢いと挑戦』であり、そのなかで大神のようなベテランの力が必要なことも理解していますが、とにかく今年は『勢い』のなかで戦っていくことを最優先しました。非常に迷いましたが、その点を踏まえて、彼女を選考から外しました」
大神と内海ヘッドコーチの付き合いは長い。大神が愛知・桜花学園からジャパンエナジー(現JX-ENEOS)サンフラワーズに入ってきた年に、内海ヘッドコーチも札幌大学のヘッドコーチから同チームのヘッドコーチに就任している。以来2人は国内リーグでも、国際大会でもともに戦ってきた、いわば同志である。内海ヘッドコーチにとって、今回の決断は苦渋の選択だったといえよう。
確かに迷うところではある。
内海ヘッドコーチが言うように、彼女の高いモチベーションとは別に、体力や技のキレが20代のときに比べると落ちてきているのは事実だ。また、これが最大の要因だと思うが、昨シーズン、大神はどこのチームにも所属しなかった――というより、再契約する方向で進んでいた中国女子プロリーグ・WCBAのチームが、急きょリーグ側の発表した「アジア人枠撤廃」に伴い、契約を白紙に戻してしまった。すでにWリーグの選手登録期限も過ぎていて、国内のチームとも契約ができない。そのために大神はコート上でパフォーマンスを披露することができなかったのだ。
大神の国際舞台での経験やリーダーシップ、ライバル国に与える印象などを考えると、せめて候補に選んで、若手と競り合わせるという方法もあっただろう。しかし、そこも1シーズンをプレイしていなかったことを考えると、アジア選手権がおこなわれるまでの約2か月で内海ヘッドコーチの懸念を払しょくすることは容易でない。仮に候補に入れて、最終メンバーの選考で落選ということになれば、それこそ大神の自尊心に傷かつくと考えたのかもしれない。候補の段階で彼女をカットし、お互いが前を向くほうが良策なのだろう。
「大神とは先日、2人で話をしてきました。強化委員会を通じて、こういうことになったよと。今、彼女は次のアクションを起こしているし、どのような方向に進むのかわからないところもありますが、そこでいい結果が出れば、来年度以降の代表復帰も十分にありうると思います」(内海ヘッドコーチ)
大神は今、アメリカに渡り、ワークアウトをおこなっている。チャンスがあればWNBAへの再挑戦も考えているだろうし、ヨーロッパへの移籍も視野に入れているかもしれない。もちろん国内リーグへの復帰だって十分に考えられる。
大神にはまだまだ前進してもらいたい。
スポーツ好きの彼女なら頭に入っていると思うが、サッカー女子日本代表の澤穂希も一時期の不振を脱し、国内リーグで高いパフォーマンスを見せたことで、来月カナダでおこなわれるワールドカップに出場する女子サッカー日本代表、「なでしこジャパン」に復帰している。
今後の活躍次第では、リオデジャネイロオリンピックの舞台に大神が立つ可能性だって、ゼロではないのだ。
また女子バスケットボール日本代表にとっても、この機にさらなるステップアップ、スケールアップを図ってもらいたい。
日本代表といってもひとつのチームである。そこには“過渡期”と呼ばれる時期が必ずあり、そこをスムーズにつなげるかどうかが、強いチームであり続けるために重要な要素となるのだ。
今年度の女子日本代表から大神の名前は抜けたが、吉田亜沙美、間宮佑圭、そしてWNBAのシアトル・ストームと契約した渡嘉敷来夢といった、大神の次に担う選手がしっかりと成長してきている。彼女たちには今年度のスローガンである「勢いと挑戦」と「覚悟と誇り」を持って、8月末に中国・武漢でおこなわれるアジア選手権に臨んでほしい(むろん、FIBAの制裁が解除されることが大前提だが)。そして2004年のアテネオリンピック以来のオリンピック出場をぜひ果たしてもらいたい。
最後に1つ言いたい。
今回の大神落選の理由の1つとして、パフォーマンスを披露する場がなかったことを先に挙げた。そこには5月末に設定されているWリーグのエントリー締め切りが、一つのネックとしてある。これをもう少し柔軟にすることはできないか。
今後、大神や渡嘉敷のようにより高みを目指して海外でプレイすることを目指す選手が出てきたとき、その契約を待つ間に国内リーグが門を閉ざしては、今回の大神のようにプレイする場が与えられない選手が出てくる。
WリーグにはWリーグの論理があるのかもしれない。しかし一般社会同様、グローバルに展開していくスポーツの世界において、国内の都合だけで選手にしわ寄せがくるのは、結果としてそのスポーツの発展にならない。今こそ、そうしたルールを変える好機ではないか。
奇しくも女子代表候補発表の前におこなわれた、新しいバスケットボール協会の新役員発表の会見のなかで、三屋裕子副会長が「プレイヤーズ・ファースト」を口にしていた。
より多くの選手がより輝ける舞台を、国内リーグに望む。
ハヤブサジャパン 平成27年度バスケットボール女子日本代表チーム
日本代表候補選手 メンバー表
■チームスタッフ
チームリーダー 高橋 雅弘(JBA)※公益財団法人日本バスケットボール協会
ヘッドコーチ 内海 知秀(JBA)
コーチ 梅嵜 英毅(山梨学院大学)
コーチ トム・ホーバス(JX-ENEOSサンフラワーズ)
総括 庄子 梢枝(JBA)
トレーナー 伊藤 由美子(JBA)
マネージャー 山﨑 舞子(JX-ENEOSサンフラワーズ)
■サポートスタッフ
ドクター 武田 秀樹(東芝病院)
S&Cコーチ 窪田 邦彦(合同会社ベストコンディションKJ)
トレーナー 古澤 美香(株式会社リニアート)
マネージャー 三浦 絵理(トヨタ自動車 アンテロープス)
テクニカルスタッフ 尺野 将太(JBA)
■選手
三谷 藍 (富士通 レッドウェーブ)
吉田 亜沙美 (JX-ENEOSサンフラワーズ)
王 新朝喜 (三菱電機 コアラーズ)
栗原 三佳 (トヨタ自動車 アンテロープス)
髙田 真希 (デンソー アイリス)
間宮 佑圭 (JX-ENEOSサンフラワーズ)
伊集 南 (デンソー アイリス)
渡嘉敷 来夢 (JX-ENEOSサンフラワーズ)
山本 千夏 (富士通 レッドウェーブ)
篠崎 澪 (富士通 レッドウェーブ) ★
近藤 楓 (トヨタ自動車 アンテロープス) ★
本川 紗奈生 (シャンソン化粧品 シャンソンVマジック)
渡邉 亜弥 (三菱電機 コアラーズ)
町田 瑠唯 (富士通 レッドウェーブ)
宮澤 夕貴 (JX-ENEOSサンフラワーズ)
三好 南穂 (シャンソン化粧品 シャンソンVマジック)
長岡 萌映子 (富士通 レッドウェーブ)
河村 美幸 (シャンソン化粧品 シャンソンVマジック) ★
馬瓜 エブリン (アイシン・エィ・ダブリュ ウィングス)
※★印=初選出/所属は2015年5月13日現在
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