時は流れ、萩原HCが東京羽田で5シーズン目を迎えるタイミングで、冒頭の通り今度はJBAから女子強化副委員長のポストを打診された。当初は専任でのオファーだったが、JBAは島田慎二会長がBリーグチェアマンとの兼任で務めているのに続き、伊藤強化委員長も長崎ヴェルカ代表兼GMのまま就任した経緯があり、萩原HCも東京羽田との兼務が認められている。
「男子・女子・3×3としっかり分けたいということで、『女子は萩原さんがよく知ってるでしょ』と声をかけていただいたんですけど、私もヴィッキーズのコーチの仕事が面白いところだったので、こっちのほうは辞めたくないってお伝えしたら、兼任でOKということになったんですよ。だから、ただ私が忙しいだけですよ(笑)。今、リーグ戦も始まった中で、午前中はほとんどJBAとのオンラインの打ち合わせですから」

伊藤委員長は会見の際、長崎とJBAの業務の比重を問われて「100対100」と答えていた。どちらも決して疎かにはしないという意思表示だが、それは萩原HCも同じこと。世界と戦うということを身を以て知る萩原HCは、新たなチャレンジに大きなやりがいを感じている。
「やっぱりオリンピックに出続けるということが、女子の強化では一番大事なことで、パリオリンピックにしても『よくぞ出てくれた』という話じゃないですか。パリでの戦い方そのものはいろいろ言われてますけど、まずは出たことが評価されるべきであって、その火を途絶えさせないことが大事なんですよね。東京で2位になったのも、たまたまとは言わないですけど、いろんな運と巡り合わせがあった。アメリカ以外の国は、その日次第でどこが勝ってもおかしくないような力関係が未だにあると思うし、日本もアジアナンバー1でい続けられないような状況になってきてるので、良いことを変えずにやっていく部分もありつつ、変えるべき部分は新しいものもどんどん入れていこうというところを、みんなの力を借りてやっていければいいなと思ってます」
島田会長、伊藤委員長の就任に際しては、利益相反の問題がファンの間で取り沙汰された。他組織の役職との兼任となると必ず懸念されるものであり、これは萩原HCの身にも降りかかりかねない。代表チームに東京羽田の選手を招集するかどうかを、チーム事情を最優先して判断することも可能だからだ。ただ、常に日本バスケット界の発展に尽くしてきた萩原HCは、利益相反の問題についても当然ながら理解した上で、女子代表が世界と互角に戦うことを第一に考えている。

「つかず離れずのところでずっと見てきて、今はWリーグにいて、うちにも本橋(菜子)と栗林(美和)がいますし、代表の選手が対戦相手にたくさんいる。そういう意味で近いところにいるんだろうなとは思うので、自分の利益にならないようにということだけは気をつけながら、日本のためにどうするかという発想は忘れないようにやっていきたいと思います」
女子日本代表の全試合でテレビ中継の解説を担当した東京オリンピックの当時、萩原HCは東京羽田に着任したばかりだった。それから4年の月日が過ぎる間に東京羽田で結果を残し、そしてこの度、タスクフォースの任を終えるや否や、代表チームの強化という重責を担うこととなった。本人は「我々の世代でそういう人がたまたまいなかっただけ」と控えめだが、現役時代から日本女子バスケット界をリードしてきた人物は、然るべきポジションで然るべき道を歩んでいるのだ。
文・写真 吉川哲彦











