かつてはシーズン半ばに開催されていたWリーグオールスターは、怪我の功名と言うべきか、コロナ禍の影響でシーズンの最後に開催されるようになって以降、そのシーズン限りでの引退を表明している選手を送り出すイベントという側面を持つようになった。ただ、2024-25シーズンに関しては開催時点で引退が明らかになっている出場選手がいなかったため、必然的にセレモニーのようなものもなかったが、そんな中で選手以外にひっそりと表舞台から姿を消す人がいた。
長年Wリーグで笛を吹いてきた渡邊整・諭の両審判は、S級ライセンス所有者55歳定年の規定により、この2024-25シーズンを最後に引退。諭氏が2年ぶり3度目の栄誉に輝いたレフリーオブザイヤーは、賞の創設以来この双子がほぼ占めてきたが、その功績に違わず、ファイナルはGAME1から諭氏と整氏が交互にクルーチーフを務め、GAME5では2人が並び立って試合を取り仕切った。
そして、リーグはオールスター本戦で2人を揃って起用する粋な計らいを見せた。試合後に整氏が「試合に溶け込もうと、ただそれだけです。無理な注文もないですし、みんなが楽しめればいいのかなって」と言えば、諭氏も「上手くやれるかなって心配はありましたが、邪魔にならないようにやれればという感じです」と控えめに語っているが、試合開始の直前に「(ジャンプボールを)ちょっと曲げて」と宮崎早織(ENEOS)に耳打ちされた通りに、諭氏はチーム原宿寄りにボールをトスアップ。その後も、木村亜美(デンソー)から受け取ったたすきを肩にかけて走り、オールスターでは導入されていないリプレー検証を観客用モニターで実施し、2人揃って河村美侑(新潟)との記念撮影に応じ、BTテーブスヘッドコーチ(富士通)の3ポイントをうちわで制するような仕草を見せ、宮崎の6歩トラベリングに対してはジャッジのアクションが通常よりも強調されていた。
なお、ここまで挙げたのは全て前半20分間に起きた出来事。臨機応変な対応で選手のパフォーマンスを引き立て、会場の盛り上げに一役買う動きは後半も続いたが、枚挙にいとまがないため割愛させていただくこととする。試合の主役はあくまでも選手。審判である2人は、オールスターの舞台でもその意識を持って臨んでいたというが、審判の存在が試合を構成する重要な一要素であることも事実。オールスターが持つエンターテイメントとしての性質を絶妙に織り込んだ、素晴らしいゲームコントロールだった。
2人が審判を志したのは高校時代。同乗した車が交通事故に遭い、体を壊したことでプレーすることを諦めなければならなくなってしまったが、中学生の頃には審判業に興味を持ち、憧れを抱いていたそうだ。
「プレーじゃなくて何か関われるものがないかと思って、審判だったら全国大会とか大きな大会も目指すことができるかなと。選手と違う形でバスケットに関われると思ったのが最初です」(整)
時を経てWリーグを担当するようになってからは、他のカテゴリーで吹くことは減り、ここ数年に限ればWリーグに専念。「Wリーグに育ててもらった」という恩義があったと同時に、「Wリーグは緻密さがありますよね。試合中はいろんな所でいろんなことが起きてるので、そこが大変なんですが、それがまた面白みでもある」とやりがいを感じられる舞台だったようだ。