苦境に立たされながらもバスケットの楽しさは忘れることなく、1年余りの時を経てWリーグのコートに戻った瞬間も、反省を忘れない冷静さも持ちつつ、喜びが全身を駆け巡った。
「呼ばれたときは正直緊張もあったんですけど、楽しみというかワクワクの気持ちのほうが大きかったですね。待ってくれているファンの方もいたので、すごく嬉しい気持ちでした。でも、コートに立ってプレーしてみて、やっぱりいつもの練習とは動きが違って、もっともっと体力とスキルを上げていかないといけないなってすごく実感しました」
姫路は26歳の陽本麻優が最年長という若いチーム。陽本に次ぐ年長者で在籍3シーズン目の矢野が今シーズンのキャプテンを務めているが、矢野は4人いる同期を筆頭に、チームメートの心強さが身に沁みているところだ。それは、ケガに悩まされてきたからこそ、より強く感じるものでもあった。
「シーズンが始まってからコートに入れていなかったので、自分に何ができるんだろうということはすごく思ってたんですけど、キャプテンを任されたからにはチームを引っ張っていかなきゃいけないということは大切に思って、コートの外からチームを盛り上げたり、暗くなってしまったときに声をかけたりすることは心がけてきました。キャプテンの務めを果たすのと、リハビリをして自分のプレーを取り戻すのと、大変なことはたくさんありました。でも、自分はやっぱりプレーすることが一番だというのが心の中にあって、その気持ちをみんなもわかってくれて、チームをまとめたりすることもいろんな人が手伝ってくれた。それでリハビリに専念することもできたし、今は復帰してプレーで示していかないといけないので、気持ちを強く持って練習にも臨んでます」
残念ながら姫路は既にWプレミア昇格の可能性が消滅している。しかし、地域のためにも最後まで全力で戦うことが姫路の使命であり、復帰したばかりの矢野にとってはここからが本番でもある。
「チームとしては、白星を1つでも獲っていきたいというのが正直な気持ちです。まだ2勝しかできていないので、残りの試合は1つでも多く勝てるようにみんなで頑張っていきたいと思います。ケガで遠征に来れないメンバーも結構いるんですけど、その人たちの分までみんなで頑張ろうという気持ちは全員が持ってるし、その気持ちが試合を重ねるごとにどんどん高まっていって、今はチームが一つになれてると思います。自分も少しプレータイムを貰えるようになってきたんですけど、そこで表現しないと次の試合で使ってもらえないことはわかってるので、貰ったプレータイムを大事にして、チームに貢献できるようにやっていきたいです」
翌日のGAME2、矢野は12分6秒と出場時間を伸ばし、今シーズン初のフィールドゴール成功に加えて5リバウンドという数字も残した。ホームで開催された翌週の山梨クィーンビーズ戦もGAME1が11分45秒、GAME2が14分50秒の出場。勝利には届かなかったが、残る5試合も矢野はステップアップしていき、姫路の次の勝利にプレーで貢献することができるはずだ。
文・写真 吉川哲彦