富士通の17大会ぶりの優勝で幕を閉じた第91回皇后杯。その富士通と決勝を戦ったのがアイシンウィングスであったことは、ある意味では富士通優勝を上回るトピックだ。過去の皇后杯における最高成績はベスト8。初めて準々決勝の壁を破ったばかりか、勢いのまま決勝まで勝ち進んだことは称賛に値する。
準々決勝のシャンソン化粧品戦も4点差決着という息詰まる熱戦だったが、トヨタ自動車と相対した準決勝はそれを上回る大激戦だった。第1クォーターは21-16とリードしたが、32-33で試合を折り返し、その後は終始接戦。56-56の同点で迎えた第4クォーター残り4.6秒、タイムアウトを取ったアイシンは当然ながらフロントコートスタートを選択し、吉田亜沙美がスローインでゴール下にロブパスを出すと、渡嘉敷来夢が一度はシュートを外したものの、自らこぼれ球を押し込み、それが決勝点となった。
この渡嘉敷の決勝点には、それを呼び込んだ伏線があった。残り4.6秒でアウトオブバウンスが判定された際、当初のジャッジはトヨタ自動車ボール。これに対してアイシンがヘッドコーチチャレンジの権利を行使したのだが、それを梅嵜英毅HCに進言したのは近藤京だった。平下愛佳とルーズボールを争った中で、平下の伸ばした手が最後にボールに触れていたのが近藤には見えていたのだ。その結果、ジャッジはアイシンボールに覆り、渡嘉敷の決勝点が生まれたわけである。これがなければアイシンが決勝進出を逃していた可能性もあることを考えると、近藤のファインプレーだった。
「絶対に相手が触ったという確信があったので、チャレンジを頼みました。あのチャレンジが成功してすごく嬉しいですし、こういう競った試合の大事なところでコートに立てる嬉しさも感じました」
渡嘉敷が決勝点を挙げた瞬間、コートに立っていた5人のうち4人までがこの試合のスターター。唯一ベンチスタートだったのが近藤だ。吉田と渡嘉敷、岡本彩也花、野口さくらの4人が、勝敗を左右する重要な場面でコートに立つべき選手であることは言うまでもない。この試合の最終的な出場時間は8分36秒と決して長かったわけではないが、高卒3年目と若い近藤が勝負のかかった局面でコートに送り出されたことは、今シーズンの成長を示す材料だ。近藤としても、梅嵜HCを筆頭にチームから寄せられる期待を強く感じ、それが良いモチベーションになっている。
「出る分数はあまりなかったんですけど、いつ出てもシュートを決めきろう、チャンスがきたら自信を持って打とうと思って、ベテランの選手たちの気持ちに応えられるようなプレーをしようということは強く思ってコートに立ちました。
残り2分くらいで出たときはすごく緊張もしたんですけど、ここで出してくれるということは少しでも信頼してくれてるんだと思ったので、強い気持ちを出して最後までルーズボールをしっかり追いかけようと思いました。最後は同点の場面で渡嘉敷さんが決めてくれたんですけど、みんなが絶対にシュートを決めるという気持ちがあったと思います」