「『私が、私が』ってなっちゃうと周りが見えなくなってしまうので、そうならずに、もう1人の自分が上から見てるようなところはあります。客観的に見て、今自分が何をしなきゃいけないのかというのは、試合前から意識してますね」
もちろん、昨シーズンまでの東京羽田について、移籍してきたばかりの加藤は知らないことも多い。しかし、「昨シーズンは出だしが良くない試合が多かったという話は聞きました」という加藤は「今シーズンは連勝できてるし、競った試合で勝ちきれる力がついてきたというのは私も感じてます」とチームが成長している感触を得ている。自身の経験を東京羽田に還元することに関しては「できてるかな~~。みんなに聞いてみないとわからないですけど(笑)」と言いつつ、「自分的には精一杯やってます」とのこと。加藤の存在がチーム全体に良い影響を与えていることは間違いない。
加藤については、おそらくこの話題は避けて通れないだろう。両親も国内トップレベルの元バスケット選手だが、SNS等で加藤が事あるごとに触れるのが兄・誉樹について。Bリーグ発足以降、昨シーズンまでの8シーズン全てで最優秀審判として表彰されていることは、妹としても大きな誇り。高い評価と信頼を集め、ワールドカップやオリンピックといった大舞台でも笛を吹く兄のことを、加藤は「本当に兄妹かなと思うくらい」と笑い、心から尊敬している。仲が良く、食事に行くことも多いそうで「本当に他愛もない、どうでもいい話ばかりしてます(笑)」ということだが、加藤にとって兄は誰よりも頼りになる存在だ。
「審判としてはもちろんなんですけど、それよりも私の兄としてすごく尊敬してます。ちょっと悩んだり、どうしていいかわからなくなったときによく相談させてもらってるんです。プレーのことで『こういうときはどうしたらいいかな』じゃなくて、気持ちの部分。今回の移籍もそうだったんですけど、何か決断しなきゃいけないときとか、そういうタイミングでいろいろ話を聞いてくれて、支えてもらってますし、兄から学ぶことはたくさんあります」
東京羽田は開幕から7連勝した後に、いずれも逆転で連敗を喫している。しかし、それを引きずらなかったのが昨シーズンまでとの違い。まだレギュラーシーズンの半分に達しようかという段階ではあるが、加藤にも手応えはある。移籍してきたからには、チームに最高の結果をもたらすのが一番の使命。インタビュー中もプレー同様に落ち着きつつ、明るく受け答えしていた加藤だが、最後の一言だけは力がこもった。
「最初は全勝優勝して昇格というのが目標だったんですけど、連敗を経てそこで気づくこともみんなそれぞれあって、もう1回引き締まって2巡目に入ってます。ここからは今日と明日で相手が違うという難しさもあるんですけど、短い時間でもみんなで良い準備をして、最終的にはこの仲間と一緒に絶対に1部(Wプレミア)に昇格したいです。自信はあります!」
文・写真 吉川哲彦