2シーズンぶりのプレーオフへ懸ける想い
過去2シーズン、セミファイナルへ進んだシャンソンの前に立ち塞がってきたのがトヨタ自動車だ。いずれも2連敗を喫し、1勝もできていない相手に、今年はひとつ早いクォーターファイナルで相まみえる。「出だしからトヨタ自動車のプレッシャーに対し、なかなか自分たちの思うような展開が作れずに苦しい時間だった。ディフェンスに少し変化を入れて流れを変えようと思ったが、なかなか変わらなくてずっと追う展開だった」と鵜澤ヘッドコーチが言うように、トヨタ自動車が後半開始早々にこの試合最大となる18点を上回っていた。
しかし第3クォーター中盤、トヨタ自動車のファウルが増えると、フリースローをもらったシャンソンへと流れが少しずつ傾いていく。3回を数えるシラ ソハナ ファトー ジャは、次のファウルを恐れることで思い切りの良さが消え、逆にイゾジェ ウチェがゲームを支配しはじめる。第4クォーターは白崎みなみのシュートからはじまり、58-61と3点差に詰める。しかし、トヨタ自動車に2連続失点を許し、58-66と8点差に広げられると鵜澤ヘッドコーチはタイムアウトを取った。
「少しずつでもちょっとずつでもいいから、必ず一つずつ返して行こう」
シンプルな言葉を受けた選手たちがコートに戻る。ウチェの連続得点で対抗する一方、トヨタ自動車は山本麻衣がおもしろいようにステップを踏んで3連続得点を決め、64-74と10点差をつける。「リードされる時間帯が長かったですけど、自分たちはあきらめることなくハドルを組んで、『1本我慢してやっていこう』と声をかけていました」と佐藤由璃果が話すとおり、チャレンジャー精神で目の前の試合にベストを尽くす姿勢はレギュラーシーズンから変わらない。
残り4分8秒、「あまり打つタイプのプレーヤーとは思ってないんですけど、4番ポジションだとやっぱり3ポイントが必要になってくるので、ここ最近はずっと練習をしていました」という佐藤が、その成果を発揮。続けざまに小池遥がさらに3点を加えると、シャンソンが波に乗った。後手に回ったトヨタ自動車のオフェンスが決まらない。その間にしっかりと得点を重ねるシャンソン。残り59秒、この日も吉田の3ポイントシュートが冴え、80-79とついに逆転する。ふたたび、小池が続けざまに3点を加えて抜け出すと、88-82の逆転勝利で今年もアップセットでセミファイナル進出を決めた。
昨シーズンのプレーオフに佐藤はコートに立つことができなかった。だからこそ、プレーオフに懸ける想いは強いが、努めて「冷静にプレーしていこうという気持ちでいます」と地に足がついている。セミファイナル進出を決め、「とりあえずはスタートラインに立てたかな」とキャプテンの小池は気を引き締め、佐藤は以下のように続けて1週間後に備える。
「去年はケガをしていたためにベンチでずっと見ているだけでしたが、みんなががんばってくれたおかげでベスト4まで上がることはできました。でも、やっぱりその壁を私が1年目のとき(2021-22シーズン)も去年も破れなかったので、今シーズンもまずはベスト4へ行き、その上を目指さなければいけない気持ちは強いです。リーグ戦で富士通(レッドウェーブ)には点差はそこまで開いてないですけど2敗しているので、自分たちがやるべきことであるリバウンドとボックスアウト、ルーズボールの徹底をどれだけ緻密にできるかが、まずは大事だと思っています」
舞台を武蔵野の森総合スポーツプラザへ変え、1度だけやり直しが効くセミファイナルは総力戦となる。シャンソンはこの2試合でいずれも5人の二桁得点者を記録し、シーズンを通しても試合毎に変わるヒロインがチームを勝利に導いてきた。3×3アジアカップでは準々決勝敗退となったが、予選では延長で勝負を決める2ポイントシュート(※5人制の3ポイントシュート)を決めた金田が戻って来る。記念すべき25周年を数えるWリーグの幕開けとなった1999年、ファーストシーズンを制したのはシャンソンだった。
文・写真 泉誠一