アイシン ウィングス(旧アイシン・エィ・ダブリュ)との一員としてWリーグ プレーオフを経験したのは、キャプテンの酒井彩等だけ。2015-16シーズンに8位となり、1位のENEOSサンフラワーズと3戦2先勝方式のクォーターファイナルで対戦したのが8年前。後がなくなり、48-84と大差がついた2戦目に、2年目の酒井は3分間コートに立った。その試合で立ちふさがるENEOSの司令塔だった吉田亜沙美が今シーズン、アイシンの一員となって現役復帰を果たした。
常にプレーオフではファイナルに立ち、日本一を争い続けてきた吉田にとって、レギュラーシーズンに(12勝)14敗し、プレーオフ初戦敗退ははじめての経験である。梅嵜英毅ヘッドコーチは悔しい思いをさせてしまっていることに、シーズン中から申し訳ない気持ちに苛まれてきた。それでも吉田とともに、シャンソン化粧品シャンソンVマジックから野口さくら、トヨタ紡織サンシャインラビッツから飯島早紀とプレーオフ経験ある3人の加入がチームの意識を変える。梅嵜ヘッドコーチはその変化について語ってくれた。
「どうしても吉田や野口らのモチベーションや意識レベルの高さとまわりがマッチしていかない部分が最初のころはすごくあり、チームビルディングやマネジメントしていく上で少し苦労した。だが、段々と勝つことや順位を上げていくがんばりが、練習中や試合でも負けたくない気持ちとして表れてきた。僕の方から何か声がけをしたわけではないが、勝つことや良いゲームをできたことが選手へのプラスになっていたのかな。移籍選手の加入により、普段の取り組みがやっぱり今までとは違い、その影響はものすごく大きかった」
はじめての大舞台に立つ選手たちに対し、「このプレーオフの方式も最初で最後(※来シーズンからレギュレーションが変更し、プレーオフは上位4チームとなる)。たまたまこの1回きりのチャンスにうまくハマったんだから、もう思いきってプレーしよう」と梅嵜ヘッドコーチは選手たちを送り出した。
一発勝負で駒を進める「京王 Presents Wリーグプレーオフ 2023-2024」のセミクォーターファイナルは、5位シャンソン化粧品シャンソンVマジックと対戦。今シーズンこそ2連敗だったが、過去2年は1勝1敗で、分が悪い相手ではない。しかし、試合がはじまると2-12、いきなり二桁点差のビハインドを背負う。「最初の入り方はちょっと硬かったかな」と梅嵜ヘッドコーチには見えていたが、先発としてコートに立った峰晴寿音の心境は違った。
「あまり緊張はしていなくて、本当に楽しもうと思っていました」と言い、仲間やスタッフなどすべてのチームメイト、この舞台を用意してくれたWリーグ、そして何より一緒に戦ってくれるファンなどへの感謝の思いが溢れ、アーリーエントリーから数えて3年目にして初のプレーオフに臨む準備は万全だった。最初の2分間で、峰晴は3本のシュートを放っている。決め切れなかったのも硬さではなく、気持ちが昂ぶりすぎていたせいかもしれない。10点差にも慌てることなく、「自分たちのやるべきことを継続的にやり続ければ追いつく、追い越せるというのは共通認識としてあり、しっかりと競ったゲームはできると思っていました。私自身は、そんなに焦ってはいなかったです」と変わらぬ積極的なプレーが、チームの緊張を解いていく。前半に逆転する時間帯もあり、41-44と1ゴール差で折り返した。