川井によれば、それぞれの経験値の高さも大きな意味を持つ。ポイントガードは、他のポジション以上に状況判断力が求められる立場。「私も9年目ですし、安間さんはたくさん経験があって、山本も若いですけど経験は十分にあるので、短い言葉でコミュニケーションが取れるし、やりたいことがすぐにできる」という川井の言葉は、司令塔として戦況を見極め、必要なプレーを選択するように努めてきたことが3ガードを機能させる要素になっていると解釈して良いだろう。
誰がボールを持ってもスムーズにオフェンスを展開できるのは、その前段階のディフェンスで相手をしっかりストップしているからでもある。自身も得点能力の高いコンボガードとして現役生活を過ごした大神雄子ヘッドコーチは、「トヨタはディフェンスから走るチーム」ということを前提に、3人のディフェンス力を高く評価。この日の最後の15分で3人がコートに立ち続けたことも、「自分たちは練習で強度高くハードワークしてますから、15分だろうが20分だろうが走れるし、フィジカル面も落ちない」という信頼が前提にある。そして、そこから「リバウンドを取った後、安間もプッシュできる、川井もプッシュできる、山本もプッシュできる、そこで相手は誰をピックアップすればいいのかとなって、カオスを生める」とオフェンスで優位性を作ることができるのだ。
大神HCが「特に強度が高いし、読みも良い」と称賛する川井は、3人の中でもディフェンスをとりわけ強く意識している選手。3ガードのラインアップにおける自身の役割に、当初は混乱のようなものもあったそうだが、自らの武器を改めて認識し、チームから求められている仕事にフォーカスすることを第一に考えたことで、迷いなくプレーができているということだ。
「チームファーストという考え方は変わらないので、トヨタでバスケットをしている以上は自分に求められていることをやるのが責任。1番のほうが自分の良さは出ますけど、ディフェンスも自分の良さなので、大事な場面でディフェンスで流れを持ってこれるというのは自分にしかできないと思ってます。どちらかというと、ディフェンスさえ頑張っていればというのが大きいですね」
3ガードラインアップはその希少性ゆえに、選手個々にとって新たな発見やプレースタイルを広げることにもつながる。トヨタ自動車がリーグ初優勝を果たした際のプレーオフMVPで、その後ドイツとイタリアでのプレーを経て復帰してきた安間は、3シーズン前の在籍時と異なる戦略に新鮮さを見出しているところだ。
「前にいたときは完全に1人のポイントガードでやってて、2番には三好(南穂)さんがいたので、私は常にボールを受ける側とか走る位置にはいなかったですけど、今はガードが他に2人いるので『走れるときは走っちゃおう』と、それが自分の中では新しいし、いつも全員を見てるんですけど、自分が前を走ったら違う角度から見ることになる。そこは勉強しながらやっているところで、以前一緒にやってたのも山本と平下(愛佳)くらいなんですけど、その他のメンバーともどんどん合ってきてると思います」