時間帯によってポイントガード2人を同時に起用する “2ガードラインアップ” を採用するチームは多い。普段は使っていなくても、例えば相手のディフェンスが強度を上げてきたときに、ボール運びでのターンオーバーを防ぐ目的でハンドラーを2人コートに立たせるのは、おそらくどのチームでもあることだろう。
これが3人となるとどうだろうか。昨今は従来のポジションの概念が薄れつつあるが、ポイントガード3人が同時にコートに立つというのはめったに聞かない。全体のサイズが必然的に小さくなり、リバウンドやディフェンスで不利になってしまうからだ。オフェンスでもポジションバランスに影響が出てしまうなど、デメリットの面を考えるコーチにとってはリスクが大きいと言わざるを得ない。
ところが、Wリーグにはその “3ガード” をスターティングラインアップに採用しているチームが2チームもある。1つは宮崎早織、高田静、星杏璃という日本代表クラスのガードを擁するENEOSサンフラワーズ。ウィングの林咲希と奥山理々嘉を移籍で失ったことが、3ガードにシフトチェンジした大きな要因だろう。
そしてもう1つがトヨタ自動車アンテロープスだ。昨シーズンのファイナルを戦った2チームがいずれも3ガードの布陣を敷いているというのは興味深い事実だが、それはさておき、トヨタ自動車もウィング陣の層がやや薄いのは否めず、やはり日本代表経験者である安間志織、川井麻衣、山本麻衣という豪華なガード陣がスターターを占めている。
しかし、それを苦肉の策と受け止めるのは早計だ。1月5日の富士通戦は、そのトヨタ自動車の3ガードの強みを垣間見ることができた。前日にリーグ戦初黒星を喫し、開幕からの連勝が16で止まったトヨタ自動車は、この日も第3クォーター途中に最大12点ビハインドを背負う苦しい展開だったが、オーバータイムの末に60-55で勝利。第4クォーターとオーバータイムの合計15分間は3ガードがコートに立ち続けた結果、第4クォーターは6失点、オーバータイムの5分間は2失点。サイズ面で相手にアドバンテージを与えてしまう状況でありながら、ここまで失点を抑えたのは驚きだ。
トヨタ自動車において、3ガードラインアップがチームにもたらすメリットとは何か。まずオフェンス面では、それぞれ持ち味が異なる中でも、3人ともゲームメイクできるという点が大きい。安間曰く、「今この場面は誰がポイントガードをやろう、というのを決めてるわけではないです。速く攻められるところは速く攻めて、コントロールするところはコントロールするというのが、1人がわかっていれば、他の2人もどこのポジションにいってもプレーできる」。これは、3人全員が2番ポジションもこなせるプレースタイルだからできることでもある。山本も「誰でもコントロールできるのが強み」とした上で、「自分がプッシュしなきゃいけない時間帯もあるので、それをしっかり見極めて、任せるところは任せて、得意のシュートを積極的に狙っていこうと思ってプレーしてます」と自身の持ち味を発揮できるように心がけているということだ。