その実力を考えれば当然のことではあるが、昨シーズンのバックアップガードである山本由真を差し置いて2番手で登場するのは、それだけ梅嵜HCからの信頼が厚い証拠であり、吉田をいち早くチームのスタイルに馴染ませる、逆に吉田が持つものをチーム全体に浸透させていくといった意図も少なからずあるに違いない。その “吉田が持つもの” の最たるものが、勝利を目指す姿勢だろう。日本代表の中心選手として活躍し、ENEOSのWリーグ11連覇を知る吉田の経験値は誰もが持つものではなく、もちろんアイシンの他の選手にもない。勝ち慣れていないチームを変えるということを、吉田も強く意識している。
「今日も勝ちきれるゲームだったと思うけど、気持ちの差なのか徹底力の差なのか、相手がどうこうというよりは自分たちが我慢しきれずに勝手に崩れていっちゃった部分がある。悔しいという想いが本当にあるのか、勝ちたいという気持ちがゲームのスタートからあったのかどうか、そこは突き詰めないといけない。負けてもしょうがないよねっていうのは絶対にダメだし、それだと勝ち残れないので、負けるのが当たり前じゃないというのを選手たちにしっかり伝えなきゃいけないと思います」
繰り返しになるが、吉田のような選手がコートにいれば周りの選手の意識は変わる。つい頼りたくなるのも必然といえば必然であり、実際に頼らなければならない場面も出てくるだろうが、そればかりではチーム全体の成長は見込めない。そのことを誰よりも知っているのが、当の吉田だ。
「どうしても人任せになっちゃって、『自分がやる』というのがまだまだ少ないチームなんだなと思います。困ったらガードがピックを使う、それだけじゃ絶対に勝てない。ガードの組み立てもそうですけど、ウィングとビッグマンにもそれぞれ役割とか持ち味があるはずで、今日は人任せでそれが出なかった。これでリーグを戦っていけるかといったらそうじゃない。最後に背負わないといけないのはガードだし、時間がないときは自分が背負うと思いますけど、そうじゃないときも人任せになってる。攻める過程でパスをつなぐだけで、それがあなたの仕事になりますかっていったら、それは違うよねっていう話になるので」
チームメートにとっては耳の痛い言葉だが、勝利の経験を重ねてきた吉田の言葉には説得力があり、「このチームで勝ちたい」という気持ちが強いからこその言葉でもある。大好きなバスケットを楽しむためにも質の高いチームプレーを追求し、勝利を目指す。それが、吉田にとっての “当たり前” ということなのだ。
「3年ぶりだったので緊張はしたんですけど、またこうやってWリーグでバスケットができるのは楽しいですし、幸せだなという想いが一番です。オフの間の練習も楽しかったですし、このチームメートと一緒にできるというのが何よりも幸せなこと。アイシンのバスケットを今日できたかといったらたぶん1秒もできなかったと思うんですけど、やっぱり自分たちのバスケットをやってるときが一番楽しいし、良い顔をしてプレーできると思うので、もっと徹底してやっていかなきゃいけないと思います」
文・写真 吉川哲彦