日本の女子バスケット界では近年でもまだまだ例が少ないことだが、楠田HCは現役のうちに結婚。アテネ五輪後に引退してからは子育てにも追われながら、今もこうしてバスケットの第一線で精力的に活動している。現役を退くとそのままバスケットの世界からフェードアウトしてしまう人が多数派の状況で、今年6月までの2年間はWリーグの理事も務めていた。指導者の道を歩んでいることも、勝利を目指して努力を重ねた自身の現役時と変わらぬモチベーションを持てる、そんな魅力があるという。
「私はひっそり暮らしたいって思ってるんですけど(笑)、皆さんがこうして表に出していただいて、こんな私がありがたいことですね。本当に嬉しい限りです。
教える立場には携わらないと思ってたんですけど、クリニックをやり始めて、共栄大でチームを持つことになって、それはやっぱり責任もあるし、苦労もあるけど、“チーム” ってめちゃくちゃ大切だから、チームで勝つ喜びや負ける悲しみを味わえるのは楽しいです。勝ち負けはもちろん指導者の采配次第だったりすると思いますけど、できなかったことができるようになった子どもたちの笑顔が忘れられない。『バスケットっていいな』って思います」
指導者と言っても十人十色。楠田HCのようにトップリーグでプレーし、かつ代表として国際試合の経験もある人材は貴重だ。東京五輪で新たな歴史のページが開いた女子バスケット界において、そんな自分だからこそできる指導もあることを自覚し、長年携わっている若い世代の育成に対して改めて決意を示す。
「今アンダーカテゴリーは指導者の皆さんもすごく頑張ってるので、そこで自分も経験をいろんな形で教えていきたいと思います。海外を経験したかしてないかというのはやっぱり違うところがあると思うので、そういうところも伝えていければと思ってます」
当然ながら、国体チームの活動期間以外は、新天地の明星学園高での指導が第一。まだその指導は始まったばかりであり、高校生の指導は未知ということも手伝って、今はその決意が特に強い。そして楠田HCの場合、 “自分だからこそできる指導” は国際舞台の経験だけにとどまらない。
「歴史のある明星に入ったわけだから、それなりの責任は果たしていきたいです。言い方は悪いですけど、歴代の先輩もうまく使って、全員で明星らしいバスケットの形を作っていって、バスケットを盛り上げていけたらと思います。また、一女性として、指導者がもっと増える状況を作っていきたいというのもあります。結婚して選手をやってたというのは、一応最先端をいってたと自分でも思ってて(笑)、別に結婚したから偉いとか結婚してないのが悪いということではなく、こういう形でもできますよというのをみんなに共有していきたいです」
引退から20年近い年月が過ぎ、「もうそんなに経つんですねぇ、しみじみしちゃう(笑)」という楠田HC。しかし、指導への情熱は冷めるどころか、新たな一歩を踏み出して高まる一方だ。まだまだ長く続くであろうコーチングキャリアで楠田HCが見せる姿は、多くの人の手本になっていく。
文・写真 吉川哲彦