ENEOSの中心選手だった吉田は当然のことながら、飯島も昨シーズンまではトヨタ紡織でプレーし、プレーオフを経験している。そして野口も、プレーオフに進むのが当たり前のチームで過ごしてきた選手だ。しかしながら、近年のアイシンは下位に低迷し、昨シーズンもあと一歩だったとはいえプレーオフを逃している。Wリーグは来シーズンから2部制に戻り、今シーズンのプレーオフ進出8チームがそのまま来シーズンは1部で戦うことになる。ボーダーライン上にいるアイシンは、昨シーズン超えることができなかった壁を超えなければならず、野口が果たすべき役割はなおのこと重要になる。
「このチームに伝えなきゃいけないと感じる部分は、練習してる中でもバスケ以外のところでもたくさんあるんですけど、まだ若いというのもあるし自分も伝えるのが苦手というのもあって、伝えきれないというかみんなに任せちゃってる部分がどうしても出ているというのは、自分でもわかってます。移籍してきた人は上位チームにいたので、その人たちとコミュニケーションを取りながら、プレーオフに行くにはこれくらいのレベルでやらなきゃいけないということをしっかり伝えていけるようにと思ってます」
そんな野口にとって、やはり吉田の存在は特に心強い。連覇を続けていたENEOSはもとより、日本代表をも長きにわたって引っ張ってきたスーパースターの吉田から、若い選手の多いアイシンが学ぶべきことは限りない。サマーキャンプでも、吉田は試合には出場しなかったものの、ベンチで他の選手にアドバイスを送る姿も見られ、野口が真剣な表情でそれに耳を傾けている様子も窺えた。
「吉田さんも合流して日が浅いので、まだそんなに一緒に練習できてないんですけど、いるだけで参考になる。一つひとつの行動とかちょっとした声かけとか、そういう部分でさすがだなと思うことがたくさんあります。プレーしてない分、コミュニケーションを取る場面もまだ少ないんですけど、私もこれからコミュニケーションを取っていく中で吸収して、チームのみんなに発信していけるようにと思ってます」
事実、バスケットの取り組み方や普段の行動といった面で、既存の選手と吉田の間には意識の差があることを野口も感じているとのこと。その現状を変えようという野口の姿勢は、チームの大黒柱にならなければという意欲の表れでもある。
「そういう部分で自分もこのチームに入ったというのもあるので、まだ少し自覚が足りないかなとも思うんですけど、開幕までには “チームの中心” という自覚をもっと強く持っていって、年齢の上下に関係なく伝えるべきことを伝えて、プレー以外でもチームを引っ張っていく存在になれたらと思います。できることはたくさんあるし、16人いる中でコートに立たせてもらうからには、みんなのエネルギーになるようにプレーしたいです」
昨シーズン後半はコートに立つことができなかった野口。環境は変わったが、こうしてまたWリーグでプレーできていることには充実感があり、「今バスケットしていて楽しい?」という問いに「はい、楽しいです!」と笑顔で即答した。チームに溶け込み、若いながらもリーダーシップを発揮しようという責任感を持ち、それに加えてプレーする喜びも感じている野口は、間違いなくアイシンの躍進のカギを握る選手だ。
文・写真 吉川哲彦