Bリーグではスター選手の移籍や、特定のクラブの積極補強にファン・ブースターがざわつくのがオフの恒例。今オフも、思わず目を見開くような移籍劇が頻出した。翻ってWリーグはというと、移籍を選択する選手が年々増えているとはいえ、活発度という点でも、またファンに与える衝撃度という点でもまだBリーグほどではない。チーム数が少ない以上、やむを得ないことでもあるのは確かだ。
しかし、このオフは大きな動きを見せる下位チームが出現した。全14チームで最も意欲的な補強に動いたのは東京羽田ヴィッキーズだが、最もファンを驚かせたのはアイシン ウィングス。吉田亜沙美、飯島早紀、野口さくらというWリーグでの実績十分な3人の獲得に成功したのである。移籍の経緯が三者三様という点でも実に興味深く、近年稀に見るレベルのインパクトだ。
直近の日本代表活動への参加歴などを考えると、野口に対する期待はとりわけ高い。サイズと機動力を併せ持ち、伸びしろも十分な22歳という若さ。昨シーズンはシーズン途中の退団で12試合しか出場していないものの、1試合平均12.2得点8.8リバウンドという数字を残している。
アイシンのユニフォーム姿を初めて披露したWリーグサマーキャンプも3試合全てスターターで出場し、全て2ケタ得点。地域リーグのTOTOと対戦した2日目には、17分11秒の出場時間でいずれもチームトップの19得点8リバウンドを叩き出した。3日間のサマーキャンプを終えた7月17日、野口はこう振り返っている。
「移籍して初めてのWリーグの試合というのもあって少し緊張したのと、やっぱり練習や練習試合とは違う部分もたくさんあって、練習でやってきたことや今までできたことができないなと思うこともたくさんありました。でも、それもサマーキャンプがあったからこそ知れたことだと思うし、今は失敗を恐れずにチャレンジすることができるから、前向きにチャレンジ精神を持ってプレーするということをチームのみんなが思いながらできたのかなと思います」
まだ若い野口にとっては、移籍も初めてのことだった。試合やSNSなどでの様子を見る限り、明るく人懐っこい印象のある野口だが、本人は人見知りと自覚しているところがあるらしく、「どうやってコミュニケーションを取ろうかな」と不安だったそうだ。しかし、それも実際には杞憂に終わった。
「初めての移籍というのもあるし、知ってる人もいなくて、自分はコミュニケーションを取るのが苦手なので、なかなか自分から話しかけられないことが多かったんですけど、チームの先輩方をはじめ、みんなが優しく受け入れてくれて、みんなのほうから話しかけてきてくれました。代表活動にも行ってたので、合流してまだそんなに経ってないんですけど、もう何年もこのチームにいるような雰囲気があって、自分でも馴染めてる感じがあります。アイシンのメンバーに感謝したいです」