もちろん、これだけ大きな組織のトップに立つということは、これまでの活動や経験で全てカバーできるものではない。しかし、留任した橋本信雄副会長に加え、新任の髙橋雅弘専務理事も長くWリーグに携わってきた人物。原田会長は「いろんな人の力をお借りしていきたい」と、チームプレーでこの重責に臨もうとしている。原田会長自身、現役時代はガードとして、またキャプテンとしてチームをまとめてきた実績の持ち主。選手時代の経験は、こういう形でも生かされることになりそうだ。
「このWリーグも、いろんな個性が一つになってこういうリーグになっているというのがあると思います。1人ひとりにいろんな役割がある中で、同じ方向を向いてやっていくというところはバスケットと同じですよね。私は『ついてこい』というのではなくて、周りの人に助けられてきたキャプテンでした。それで悩むこともあったんですけど、人と人の間に入っていけるパイプのような役割でどう信頼を得ていくかというのは、キャプテンのときも今の立場も同じかなと思っています。日頃の行動から、信頼してもらえるようにしていきたいですね」
“選手のときと同じように” という姿勢は、原田会長自身の生き方からきているようだ。明確な目標に向かって走るのではなく、そのときの自分にできる範囲のことを一生懸命やることで目標が明確になり、そこにたどり着く。それが、原田裕花という1人の人間がここまで歩んできた手段であり、肩書が変わってもそれは変わらない。
「私は現役時代も、今できることを最大限頑張っていくところから、いろんなことにつながっていきました。オリンピックも、目指していたわけではなかったんですよね。だから今も、役割を全力で果たしていきながらビジョンを持っていくということになると思います。リーグとしてのビジョンもある中で、そこに対して自分がどうするのか、何ができるのかを考えながらやっていきたいと思います。目標を立てて、先を見据えてやっていくのがベストなのかもしれないんですけど、私はまず与えられたことからしっかりやっていく、そこからスタートしようと思ってます」
オリンピックにも出場したほどの人物がトップということになると、各チームの関係者やOGはもとより、ファンやメディアの視線も集めることになるだろう。特にメディアに対する訴求力は間違いなく強く、原田会長も「メディアの方にそう思っていただけたら嬉しいですし、一緒になって何かやっていけたらいいですよね。そういう方たちにWリーグがどう見えてるのかなというのはありますし、自分に見えてない部分が見えているとも思うので、そこも聞いていけたらいいなと思います」と、ここでもコミュニケーションを図っていきたいということだ。「一緒に良いリーグを作っていきたい」と多くの人を巻き込み、「関わる全ての人が笑顔になっていけるように」と意気込む新会長。現役時代と同様に、的確なコントロールと人を惹きつける力で、Wリーグを今まで以上の高みに導くことを期待したいものだ。
文・写真 吉川哲彦