新潟アルビレックスBBで選手生活を終えた鵜澤HCにとって、新潟市東総合スポーツセンターで開催された今回のプレーオフは凱旋の機会でもあった。レギュラーシーズンに組まれていたアオーレ長岡での2試合には帯同することが叶わなかったが、今回は無事凱旋を果たし、「何度か試合をしたことのある体育館で、懐かしい顔ぶれも応援に来てくれたので、昨日今日と良い試合を見せることができて本当に良かったなと思います」と安堵した。
鵜澤HCが現役を退いたのが4シーズン前。そもそもコーチとしてのキャリアもまだ3シーズン目でしかなく、昨シーズンも指揮を代行した経験があったとはいえ、鵜澤HCが本格的に指揮を執るようになったのは年明けからだ。「全ての経験が良い勉強になる」という鵜澤HCにとって、三菱電機戦の勝利もこれまでの経験が生かされた。
「選手のときもこういう苦しい展開を何度も経験してますし、今日はそこに尽きるかなと思います。HCの僕が下を向いていたら選手はついてこないし、僕が選手たちの背中を押してあげるということも、僕が選手だった頃のことを考えれば、それが今の自分の役割だと思うので、今日の試合に関しては本当に『最後まで諦めない気持ち』だったと思います。あと、トレーナーやマネージャーも含めてチーム全員で一丸となって戦うというのも、選手時代の経験を生かしてできたんじゃないかと思います」
引退して間もなかったということもあるが、シャンソンに加入した当初は「女子の世界を全然知らなかったので新鮮でした。学びがたくさんありましたし、Wリーグはレベルも高いので、なるほどなと思うこともありました」と、あらゆるものを吸収する日々。チームの指揮を執り始めた頃でも「いろんな先輩コーチを参考にしながら、自分にはどういうことができるのか、何が適しているのか、自分に足りないものは何かということを考えて、手探りでやっている状況ですが、今はそういう時期かなと思います」と、まだまだ修業中の身という意識が強かった。
しかしながら、「起きている現象に対して、どれだけポジティブに向き合えるか」ということを常に考える鵜澤HCのマインドは、選手たちにも良い影響があったようだ。三菱電機戦を終え、「鵜澤HCと小池主将が最後まで諦めないという声かけを何回も何回もしてくれて、チーム一丸となって勝った試合だった」と振り返ったのは水野。大ケガを負い、チームがセミファイナルに進出してもベンチで見守るしかなかった昨シーズンの経験を踏まえ、「去年はすごく悔しかったので、このチームでまたセミファイナルに進めて率直に嬉しいです」と喜んだ。鵜澤HC自身も、指揮を執り始めた頃にこんなことを話している。
「Wリーグもプロなんでね、しっかり自分たちにフォーカスを当てて、どんな状況でも自分たちの決めた目標に向かってやっていくよという話はしてます。上手くいかなくても、切り替えて次に向かっていくしかないので、『下を向かなくていいよ』と」
難しい状況に置かれても、「それを言い訳にはしたくない」という鵜澤HC。セミファイナル進出という結果は、その言葉を体現するものだったと言えよう。まだ始まったばかりではあるが、早くも成果を挙げたそのコーチングキャリアは前途洋々だ。ついでに、今シーズンもぜひオールスターに出て、鼻毛ブラジリアンワックスを超えるパフォーマンスを披露してほしいものである。
文 吉川哲彦
写真 W LEAGUE