レギュラーシーズン最終週のシャンソン戦は、川端日菜子にとっては今シーズン一番の楽しみだった。しかし、開幕当初はスターターとして一定の出場時間を得ていた川端も、片山と同じくシーズン終盤は故障に悩まされ、せっかくの古巣との対戦も出場時間は限られてしまった。
「最後なので、そこまでケガなくやりたかった。4年間一緒にやってたチームメートと一緒にコートに立つ時間が少なかったのが何より悔しいし、お母さんとかも見に来てくれて良いところを見せたかったので、本当に悔しい気持ちが大きいです」
かつてのチームメートと顔を合わせたときは「会えて嬉しかった」という川端だが、シャンソンでは4シーズンも過ごしただけあって「すごく仲が良かったのに相手チーム、というのが正直違和感がありました」とのこと。その週の火曜日にようやくチーム練習に復帰したばかりでもあり、第1戦の第4クォーター残り3分2秒でコートに立ったときは「出られるチャンスをもらって嬉しかった」と喜ぶ一方で、対戦相手としてシャンソン時代の仲間と向かい合うことは「やっぱりちょっと複雑で……」と違和感を拭いきれなかったようだ。
そもそも、山梨のチームが置かれた環境も、川端にとっては別世界だった。「仕事してからバスケとか、今までしてないことばかりだったので、慣れるまで時間がかかった」というのは、チームの在り方が異なる以上は仕方のないことだ。ただ、「それ以上に山梨の良いところを見つけたので、環境はあまり良くないかもしれないですけど、自分なりのやり方でバスケットができてます」とポジティブな意味でも未知の世界だった。
「初めて山梨でやったトヨタ紡織戦で、ブースターさんがたくさん応援してくれた。そういうのが初めてで、失敗しても応援してくれる人がいるっていう安心感は大きかったです」
決して完全燃焼できたわけではないが、「バスケットはシャンソンで辞めようと思っていた」という川端にとって、山梨で過ごした初めてのシーズンは満足感も得られるシーズンだった。
「この1年を振り返ってみれば、HCも代わり、バスケットも新しくなって、最初はチームメートと息が合わなかったんですけど、それがだんだん合ってきて、その瞬間が自分にとっては一番良かったです。バスケットって楽しいなって気持ちにもなったし、その分、負けが続いたときはWリーグに5年いて一番きつかったなと思うんですけど、このチームでバスケットができるというのは当たり前じゃないし、バスケットができる環境にいること自体がまずありがたいです。それを親に、恩師に、シャンソン時代のコーチやチームメートに見せられている今が、山梨に来てバスケットができて本当に良かったなって」
3週間程度のリハビリ期間が明け、初めてシュートを放ったときに「やっぱり自分はバスケットが好きだなって確信しました」という川端。恩返しの想いを抱きながら「できる限りはバスケットをやっていきたい」と、その視線は既に来シーズンの方向を見つめている。
この3人にとって、山梨の地に立ったことは大きな希望の光だった。苦しみも味わったシーズンを経て、この先どのようなキャリアを積んでいくのか。その未来がどうあれ、山梨で得た様々な経験が彼女たちの糧になっていく。
文・写真 吉川哲彦