勝つ文化がない。エースがいない。本当の努力の仕方が分からない。伝統がない。
嘉数ら多くのルーキーに対し、小嶋ヘッドコーチは「不慣れなリーグで一生懸命やってくれた」と労う。その一方で、「彼女たちが持っている能力の何パーセントしかまだ出せていない。二桁得点する良い働きもあったが、それが全く続かない。1試合良い働きをしたと思ったら、10試合くらいご無沙汰になってしまった」と続けるのも期待の現れである。活躍を継続できない原因として、また明確となったチームに足りないものとして、小嶋ヘッドコーチは「伝統」というキーワードを挙げた。
「昨シーズン17年ぶりにWリーグへ新規参入したわけだが、先輩チームは17年分の蓄積があり、伝統がある。我々にはそれがなく、また社会人リーグなどから勝ち上がってきたわけでもないので、チームに勝つ文化がない。勝ちたい気持ちは強いが、では勝つために何をすれば良いかというところが足りていない。今日(富士通戦)もそうだが、球際や人際で完全に遅れを取っている。その状況判断の早さが伝統あるチームの強さ。特に上位チームと対戦するときに、その差をひしひしと感じる。他のチームが17年かけて培ったことを我々はできるだけ短期、早期に身につけるような努力をしていかなければいけない」
スタッツを見れば平均二桁得点をマークする選手はおらず、突出したエースもいない。そこも課題と指摘する小嶋ヘッドコーチは、「エースになるための努力やそのために必要なことを教えてくれる人がいない。彼女たちが本当にエースになりたければ、自分なりにその辺を勉強していってほしい。僕らもそういうアプローチをどんどんしていかなければいけない」ともどかしさを痛感していた。
全ての試合で先発出場した嘉数も、「やっぱり球際であったり人際であったり、その部分の強さが足りずに、そこで一度止められてしまいました。そのときにもう一度アタックして相手の壁を破るという強さが足りなかったことで、この結果に終わってしまいました」と述べ、指揮官と同じ反省点を並べた。逆に言えば、それだけ目指すべきバスケは浸透しはじめている。
小嶋ヘッドコーチ自身はデンソー アイリスを率いて9年、優勝こそ届かなかったが2度ファイナルへ導いた。伝統の差を縮めるために、「僕が選手のレベルに降りていかなければいけないときもあれば、トップチームのレベルへ引き上げていけないときもある。やっぱりメンタルの問題であり、いかんせん勝つ文化がない」現状を打破するには選手たちが自主的に変わることを求める。
「今はまだ勝ちたい意欲だけ、それはWリーグの全員が持ち合わせているもの。その中で勝つために本当の努力をする選手が少なく、その仕方も分かっていない。ただ、やれと言ってもできないので、そこは地固めをしながら引き上げていくしかない」
伝統は足りていないが、秋田には熱いファンが多くおり、チームを温かく支えている。「今シーズン10試合あったホームゲームでは会場一体がオレンジ色に染まり、すっっっごいファンの方々の声援が力になっていることをあらためて感じることができました」と嘉数は感謝する。恩返しをするためにも来シーズンのさらなる活躍を誓い、レベルアップできるオフシーズンがはじまった。
文・写真 泉誠一