1月2日の代々木第二体育館、勝利した瞬間からロッカールームに引き揚げるまで、若原愛美は涙が止まらなかった。第4クォーター終了と同時に同点3ポイントを決められ、山梨クィーンビーズにとっては嫌なムードも漂った中で、オーバータイムの末に1点差の粘り勝ち。大熱戦を制したという純粋な嬉し涙にも、あるいは安堵の涙にも見えたが、真相は違った。オーバータイム残り5.7秒で犯してしまったバックコートバイオレーションをはじめ、ミスが続いた自身のプレーを若原は責めた。
「チームとしては本当に勝てて良かったなと思うんですけど、個人的にちょっと不甲斐ないプレーをしてしまったなという悔しい気持ちがあって複雑です。ミスをしたときに吹っ切れれば良かったんですけど、それができずに引きずってしまって、1試合を通してチームに迷惑をかけ続けて……最後もああいうターンオーバーをしてしまったけど、チームが勝たせてくれました。ホッとしたというよりは、悔しい気持ちのほうが大きかったです。チームを代表してコートに立ってるにもかかわらず、勝利に導けないプレーが多くて、ベンチにいるみんなに申し訳なかったです」
そう語る間にも、若原の目からは大粒の涙がこぼれた。チーム関係者によると、若原は試合後に涙を流すことが他の選手に比べて格段に多いそうだ。勝負へのこだわり、自身のプレーに求めるクォリティーの高さ、主力としての責任感がそうさせているのだろう。いずれにせよ、若原が相当な覚悟でプレーしていることは間違いない。
昨シーズン、Wリーグが1リーグ制になって以降では最多となる6勝を挙げた山梨は、今シーズンもここまでは健闘が光る。アランマーレ秋田との開幕戦では22点差をひっくり返し、富士通から1勝を挙げ、トヨタ自動車に対しても第4クォーター中盤まで1点を争う接戦を演じてみせた。今回、開幕週の2試合に続く3度目のオーバータイムで東京羽田ヴィッキーズを破ったことにも、若原は以前との違いを感じている。キャプテンの岡萌乃も言及していたが、ベンチから心強い後押しの声があることが、コートの5人を支えているようだ。
「負けているときでも『まだ大丈夫』とか最後まで応援してくれて、ベンチとコートが一体となって勝ちに向かっていく姿は以前はなかったので、そこはチームとしての成長をすごく感じます」
勝ち負けが全てではないが、プレーする上で目指すものは、やはり勝利。勝利を目指して戦っている以上、試合に勝つことが一番の喜びであり、何にも勝る特効薬。そのことを、若原も今再認識しているところだ。
「やっぱり負けて得るものより、勝って得るもののほうが多いなということはすごく感じます。今シーズンは延長戦が多くて、今日の試合もその経験が生きたのかなと思います。昨シーズン6勝できたというのも大きくて、それまではチームとして勝ち方を知らなかったという部分があったんですけど、6勝したことで勝つ喜びを知ったり、みんなと喜びを分かち合えたりということも含めて、このチームにも勝つ力がだんだんついてきたのかなって思います」