Days of Journey ~旅路を大切にして~(中編)より続く
現役引退後、コーチの道へと足を踏み入れたトヨタ自動車アンテロープスを率いる大神雄子。
2年半をかけて修了した筑波大学大学院では、これまでの経験とは異なる学びもあったと認める。
「ちょっと大きな話になってしまうかもしれないですけど、日本人としての日本文化的な学びや歴史的背景、日本人としての生い立ちといった日本人としての考え方を学べたことはすごくためになりました」
現役時代はどちらかといえば海外志向が強かった。
よりよいパフォーマンスを発揮するために、積極的に海を渡り、新しいものを取り入れようとしていた。
海外に広く人脈を持つのもその成果と言えよう。
ただ大学院で学びを得てみると、それだけがパフォーマンスアップのカギではないと知る。
「根底的なものとか、基本的なものって、探れば探るほど意外と面白くて、自分たちのバックグラウンドが何かを知ることはチームを作るうえでもつながるんです。なぜ人は円を作るのかとかね。私は海外でもプレーしましたけど、海外でプレーすればするほど日本っていい国だなと思っていたので、最終的にはその感覚から日本について学ぶことも現役時代にありました。そのあとに学問として日本のことをさらに学んだので、すごくタイミング的によかったなと思います」
日本の歴史や文化などを知識として得たからといって、彼女が積み上げてきた経験が不要になるわけではない。
よく言われる「一流の選手は一流のコーチになり得ない」という言葉は、多分に一流の経験をうまく伝えられないところもある。
感覚的な部分が多いからだ。
そう考えると、よりよいコーチングをしようと思えば経験だけでカバーしきれないところも出てくる。
大学院で学ぶ中で、経験と知識が両輪になるからこそ、直感やひらめきが生まれてくるのだと気づいた。
「自分の経験って一つの選択肢であり、オプションなんですね。何でもそうですけど、引き出しがたくさんあることってすごく大きな価値があると思うんです。それを探れば探るほど、その探究心が自分の活力になるし、どんなときにどんな対処をしたらいいのか、幅広く見つけられますから。もちろん引き出しが多ければ、その分迷いも出てくるけど、優先順位をつける、つまりはそれを選択、決断していくわけですから、自分の中では決断力が増すと思っています。優先順位さえ間違わなければ、私がこれまで経験してきたことは生かせると思うし、今はチームにイヴァン(・トリノス アソシエイトヘッドコーチ)がいてくれます。昔と変わらず異文化の方の考え方も得られて、毎日が新しい発見なので、今も学び続けることができて、本当に楽しい毎日ですよ」
経験に頼るのではなく、かといって知識に溺れるわけでもない。
両方のバランスを巧みにとりながら、トリノスアソシエイトヘッドコーチや松井康司アシスタントコーチ、三好南穂サポートスタッフらの意見を聞くことでヘッドコーチとしての決断が磨かれていく
「選手たちとだけではなく、コーチ陣ともコミュニケーションの数を増やして、自分の決断をさらにシンプルにできるようオピニオン(意見)をもらっています。そのオピニオンは自分が迷うためのものではなく、たとえば選択肢が五つあれば、それを二つに絞るためのオピニオンです。そのうえで自分が決断する作業を取っています」
選手それぞれの役割を明確にするように、コーチ陣の役割も明確にし、そのための準備をそれぞれが怠ることなく、実行する。
そうすることで大神は引き継いだチームを再びチャンピオンの座に押し上げようとしているのである。