前編で記したとおり、トップレベルでの経験値がまだまだ浅い選手たちにやるべきことを明確にした。
簡単に言えば、役割を与えた。
それは今シーズンのトヨタ自動車がキャプテンを3人制にしたことや、それとは別に「リーダーズ」と呼ばれる3人のキャプテンと合議するグループを作ったことにも表れている。
「選手たちはみんな、アンテロープスを経て、これからの人生をどのように豊かにしていくかが問われると思うんです。バスケットでの結果をだけでなく、ゴールって本当にたくさんあってもいいと思っているので、チームとして掲げているゴール、今シーズンでいえば2冠をしっかりと取りに行く、つまり1シーズンを通して、強いチームをしっかり表現していくことがひとつ。もうひとつは、それぞれが人間としてのスタンダードをしっかり上げていくことなんです」
スポーツが勝敗を分けるものである以上、目指すべきゴールに勝利の旗を立てるのは、当然である。
しかし今の大神が考えるゴールはそれ一択ではない。
人として、それぞれの人生をいかに豊かにしていくか。
それもまた、バスケットボールという競技の、しかもWリーグという国内最高峰でプレーするうえで、大きな目的になりうる。
それを深く学んだのが、筑波大学大学院だった。
「私自身、現役を引退してから出会った方々がたくさんいます。今は『デュアルキャリア』という言葉もあるので、プレーをしながら大学院に通っている選手もいますが、私は現役を引退してから学問としてのコーチングを学び、そこで知識の幅が広がれば広がるほど、これまでまったくの無知だったことに気づけたんです。コーチってコーチングやチームマネジメントも大事ですけど、選手たちが何かに気づけるきっかけにならなければならないポジションだと思うようになったんです」
熱のこもった言葉はなおも続く。
「もちろん勝ち負けのなかで負けた悔しさを今後の人生には生かす道もあると思うんですよ。それが一つのウェイ(道)だとすると、もう一つのウェイは、勝ち負けに関わらず、人としての成長を求めることだと思うんです。私にそう思わせてくれたきっかけは、やはり引退してから出会った人々だったり、大学院やFIBAのプレーヤーズコミッションでたくさんの人たちと触れ合って、『うわ、自分って無知なことが多いな』って気づいた自分の無力さなんです。そういうことを引退してから感じるんじゃなくて、引退する前に気づかせてあげられたらいいなって思っているんです」
つまりは近視眼的になってほしくないのである。
大神自身は現役時代から交友関係も趣味も幅広く持っていたが、やはり勝負に関してはどこか近視眼的になっていたと認める。
「本当にそれでよかったのか。自分にそう問う分、自分としては新しい自分にも挑戦したいところがあるんです。もちろん私のこの考え方を選手たちに強要するつもりはないですけど、何かそれを一緒にみんなで築けたらいいなって思っています」
Days-of-Journey-~旅路を大切にして~(後編)へ続く
文 三上太
写真 W LEAGUE