経験値の少ないチームをどう導くか
大神が今シーズンから率いるのはトヨタ自動車アンテロープスである。
Wリーグで2連覇を達成しているチャンピオンチームだ。
前任のルーカス・モンデーロから引き継いで、3連覇に向けた指揮を採り始めたのだが、チームは大幅に若返っている。
ベテランの三好南穂(現・サポートスタッフ)が引退し、長岡萌映子(ENEOSサンフラワーズ)と河村美幸(トヨタ紡織サンシャインラビッツ)はそれぞれ移籍、馬瓜エブリンは休養を宣言した。
いずれも女子日本代表に名を連ねた選手であり、三好、長岡、馬瓜に至っては東京2020オリンピックの銀メダルメンバーでもある。
経験豊富な選手が抜けることは、文字どおり、経験値の面で見劣りをすることになる。
攻守において複雑な戦略・戦術が交差するバスケットでは、経験がひとつの武器にもなると言っていい。
大神のヘッドコーチとしての第一歩は、それを大きく欠いたところからスタートしなければならなくなった。
大神もそれを認める。
「今シーズンのメンバー構成では経験が必要だなと思っていました」
どう導くか。
昨シーズンのリーグ制覇を主力として経験し、今シーズンも残っているのは馬瓜ステファニーと山本麻衣だけ。
9月のFIBA女子ワールドカップに出場した平下愛佳や、川井麻衣、宮下希保、梅木千夏もバックアップとして活躍していたが、今シーズンは彼女たちが主力メンバーとしてチームを牽引しなければならない。
その経験は未知数。
「彼女たちも昨シーズンの優勝は経験できたけど、どちらかといえば『自分はチームのために何ができたのか』と振り返るシーズンではなかったのかなと思うんです。チームとしては優勝したけど、個人としては、もっとこうした方が良かったと振り返って、反省することが多かったと思うんですね。私はそうしたプレータイムに飢えている選手に対して、たくさんのゲームをやって、そのなかで経験値を上げていこうと考えました。もちろん経験が少ないなかでゲームをやればやるほど、失敗は出てくるものです。大事なのはそこから何を得るか。ゲームで起こるシチュエーションって毎回違っていて、練習で設定するにしても限りがあるんです。だからコロナ禍ということもありましたけど、お誘いいただいたフレンドリーゲームに関しては、相手が大学生だろうが高校生だろうが、カテゴリーに関係なく受け入れさせてもらって、ゲームを重ねてきました」
大神がまだ現役選手だったころ、ゲームで起こりうるシチュエーションを抜き出した練習がすごく大事なんだと語っていた。
その考えは今も変わらないが、一方でヘッドコーチという立場に立ってみると、抜き出すシチュエーションは無数にあり、簡単に抜き出せるものではないとわかる。
ならば、可能な限り試合をやって、実践の中で “生きた経験” を得るほうがいい。
生きた経験は、たとえ結果が失敗に終わっても、受け取り方次第でプラスに転じることができる。
新人ヘッドコーチはそう考えて、第一歩を力強く踏み出したのである。
Days-of-Journey-~旅路を大切にして~(中編)へ続く
文 三上太
写真 W LEAGUE