もちろん、今最も落胆しているのは負傷した佐藤自身であり、その佐藤に最も寄り添えるのはやはり水野だ。1年を要した自身の戦列復帰と入れ替わるように戦線離脱を余儀なくされた佐藤の心境は、誰よりも理解しているだろう。それだけに、この試合を落としてしまったことには悔いが残る。
「たぶん佐藤の気持ちは自分が一番よくわかるし、その分まで頑張らなきゃいけなかったんですけど、ベンチにいるときの声もそうだし、アップからの盛り上げも自分としては足りなかったなと思います」
しかし、リーグ戦再開はこの翌週に迫っている。試合は待ってくれないとあって、水野もここからは気持ちを強く持ち、自身の役割を果たそうと心に誓う。
「自分の強みはディフェンス。シャンソンは声かけが一番大事だと思っているので、オンボールスクリーンとかいろんな場面でしっかり声を出して、ディフェンスでアグレッシブに当たることによって周りが勢いづいて、それが得点につながればと思います。まずはディフェンスから入っていこうと思ってます」
李HCも言っていたように、水野にはアウトサイドシュートという武器もある。もちろんその役割は自覚した上で、水野はチームメートをいかにサポートするかということを強く頭に置いている。昨シーズン、自身がコートに立てない間にチームはプレーオフで久しぶりにベスト4まで勝ち進んだ。伝統あるチームの完全復活に向け、今シーズンこそはチームの力になりたいという想いが、水野にはある。
「もともとシューターなので、思いきり打つことは絶対に忘れないようにと思ってます。自分も打つ代わりに、他の人がシュートを打ったらリバウンドに入るとか、自分はみんなのカバーをしていかなきゃいけない存在だと思うので、オフェンスでもディフェンスでもみんなのカバーに入るようにということは意識してます。陰でサポートして、みんなが生きればいいと自分は思ってるので、それだけはしっかりやっていきたいです」
水野には現在京都ハンナリーズでプレーする弟・幹太がおり、「たぶん弟も今はディフェンス起用が多くて、自分でも似てるなって思います。負けないように頑張らないと」と相当な刺激を受けている様子。そして、復帰までの1年間で今まで以上に強く感じた両親の愛情にも応えたいと思っているところだ。
「リハビリ中は孤独に感じることがあったんですけど、そういうときにふと親からLINEや電話が来たんです。テレパシーじゃないですけど、そういうのってわかるのかなって。キツい時期に相談にも乗ってくれたし、親には感謝しながらプレーしなきゃいけないなと思いました。今日復帰することは言ってなかったんですけど(笑)、言っておけば良かったかなって」
今のシャンソンにおいて、苦境に立たされたチームを押し上げる力を最も持っているのは、1年前の失意から這い上がってきた水野に他ならない。プレーはもとより、精神面でもその献身性でチームに勇気を与え、シャンソン再浮上の原動力となることを期待してやまない。
文・写真 吉川哲彦