悔しい思いという意味では、鷹のはしは昨シーズンの経験も糧にしている。先に述べたようにシーズン後半に限れば勝率を5割に乗せたものの、前半の1勝11敗という出遅れが響き、東京羽田はプレーオフまであと一歩の9位でシーズンを終えた。8位と9位では天と地の差があるという現実を突きつけられ、鷹のはしはスイッチが入った。
「勝ちきるためには1本のシュートが大事になってくる。そのシュートのところに自分が関わらせていただいているので、1本でも多く決めるためにという思いでシューティングの意識も変わりましたし、練習に臨む意識も変わったと思います」
もう一つ、今の鷹のはしにとってモチベーションとなっているものがある。今シーズンは、腰椎椎間板ヘルニアを患って手術に踏みきった津村ゆり子が開幕から欠場中。このトヨタ紡織戦からチームに帯同してはいるが、まだ試合に出ることはできず、ただベンチから戦況を見守るしかなかった。鷹のはしは過去4シーズン切磋琢磨してきた同期の想いも背負い、再びコートに並び立つその日を心待ちにしている。
「私も昨シーズンと一昨シーズンにケガをして試合に出られない時期があったので、彼女のもどかしい、悔しい気持ちはすごくわかります。ベンチにいるときにそういう思いをしてほしくないので、自分が試合に出ているときはできることをしっかりやらないといけないと思っています。早く戻ってきてほしいとは思いますけど、しっかり治してもらって万全な状態でまた一緒にプレーしたいです」
翌日のトヨタ紡織との第2戦、東京羽田は念願の今シーズン初勝利。これは自らの開幕連敗を5で止めると同時に、トヨタ紡織の開幕連勝を5で止めることにもなった。勝負を決めたのは、2点ビハインドの残り0.9秒で3ポイントを炸裂させた鷹のはしだった。
「コロナ禍前の大田の良さ、ホームゲームの温かさが戻ってきてくれたなと感じます。まだ声は出せないですけど、たくさんの方が見に来てくれて観客席が青色に染まっているのが力になっているので、本当に勝ちたい想いは強いです。応援に来てくださる皆さんのためにも明日は勝ちたい」
前日にそう語っていた鷹のはしにとって、リーグ戦が中断期間に入る前にホームで白星を届けることができたのは殊の外大きな意味を持つに違いない。
Wリーグの中では他に比べてチームグッズが充実している東京羽田は、オーセンティックユニフォームに加えて背番号入りTシャツやネームタオルなど選手別の応援グッズも豊富で、ファンはチームのみならず選手1人ひとりを力強く後押しできる。鷹のはしも「コートにいても、客席を見て自分の名前や背番号はわかるので、テンションは上がりますし、すごく嬉しいです。応援してくれる人がいると思うだけで、頑張ろうと思えます」と、ファンのありがたみを感じながらプレー。Wリーグは約1カ月の中断期間に入ったが、劇的勝利に沸くファンを見て、鷹のはしは既にリーグ戦再開が待ち遠しくなっていることだろう。
文・写真 吉川哲彦