去る8月21日、東京・小豆沢体育館で湖池屋主催のバスケットボールクリニックとトークショーが開催された。湖池屋といえば有名なスナックメーカーだが、本社が板橋区にあることから小豆沢での開催となった。また、近年スポーツに関する取り組みに力を入れている湖池屋は東京羽田ヴィッキーズのオフィシャルパートナーでもあり、このイベントには当初本橋菜子が参加する予定となっていたが、日本代表候補としての活動があった本橋はビデオメッセージを寄せるにとどまり、代わって粟津雪乃が参加している。
ただ、このイベントで中心的役割を担ったのは元日本代表選手であり、現在はWリーグ理事も務める中川聴乃だ。とある縁から湖池屋の佐藤章代表取締役社長と出会い、今回のイベント開催にあたって声がかかったとのこと。第1部では、粟津の他に同じく東京羽田の大窪燿平アカデミーコーチと、昨シーズン限りで引退したOGの田代桐花をサポート役としてクリニックを実施。ドリブルを突きながらの鬼ごっこや、両サイドのゴールのどちらに攻めても良いという特別ルールのゲームなど、工夫されたメニューで約2時間にわたって小学生を指導した。第2部のトークショーは粟津とともに、成功体験から怪我との闘いまで余すところなく披露しながら、目標を立てて取り組むことの大切さなどを説き、最後は記念撮影と即席サイン会で滞りなく終了となった。
イベント開始前は「こういうのはいつも緊張するんですよ、私」と話していた中川だが、終了後には「始まったら緊張を忘れてしまうくらい、すごく楽しくなりました。素直な子が多くて、吸収力も高くて、逆に楽しませてもらってあっという間に時間が経っていきましたね」と笑顔を見せた。ただ、「あっという間に」と感じてしまうだけに「もっとバスケットが上手くなりたいとか、バスケットを好きになるきっかけになればいいなと思いながら子どもたちを見送るんですけど、もっといろいろできたら良かったのにと毎回思ってるかもしれないです。時間が短すぎて……」と、ほんの少しの物足りなさも感じているようだった。
2015年の現役引退後、試合中継の解説業を中心に様々な形で競技の魅力を伝え、底辺を広げることに尽力しており、今回のようなクリニックでの指導は中川の活動の中で大きな柱の一つとなっているのだが、「こういうことをやりたいと思っていても、きっかけやチャンスはそうそう来ない。本当にありがたい機会をいただいたなと思います」と語る中川は、実は現役を退くまでは自身の将来について特に深く考えていなかった。
「現役のときはそんなことを考える余裕もなかったです。怪我もしていたし、そのときのことを考えるのに精一杯で、バカな話ですけど『辞めたらすぐ次の目標が出てくる』くらいに考えてたんですよ。でも、そんなに甘くはなかったですね」
一つだけわかっていたのは、バスケットから離れるという選択肢がなかったということ。怪我に苦しんだことも含め、自身のあらゆる経験をバスケットの世界で生かしたい、否、生かすことができると思っていた。良かったことも苦しかったことも生かせるような、自分にしかできないことがあるのではないかと使命感に近いものを感じ、引退後の道をチャレンジ精神で自ら切り拓いていった。