昨シーズン優勝を逃し、連覇が途絶えてしまったENEOSにとって今シーズンは特別な意味を持つが、その中で宮崎にはもう一つのモチベーションがある。言うまでもなく、東京オリンピック後のシーズンという点だ。町田瑠唯(富士通)が圧巻の活躍を見せてベスト5に選ばれ、本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ)も6試合中3試合で2ケタ得点を挙げたのに対し、宮崎は1試合平均8分18秒の出場で同3.8得点2.4アシスト。林の逆転3ポイントが大々的にクローズアップされた準々決勝のベルギー戦はコートに立つことも叶わなかった。町田のプレーのインパクトがあまりにも強かったこともあるが、3人のポイントガードの中ではやや影が薄かったのも否めず、宮崎自身「本当に悔しい想いをした」と納得はしていない。また、代表での活動が例年より長かったことはリーグ戦序盤のパフォーマンスにも影響したようだが、それでも宮崎は試合を重ねながら“らしさ”を取り戻していった。
「その後のアジアカップで結果が出たのは良かったんですけど、ENEOSに戻ってきたときに馴染めていなくて重たいバスケットが続いてしまいました。でも、先輩たちや若い子たちに支えてもらって後半戦は自分の調子も上がってきた。代表での経験がどれくらい生かされているのかはわからないんですけど、『勝負どころで私がやる』という気持ちはいつも持ちながら試合に臨んでいます」
銀メダル効果でWリーグの注目度は向上し、その好影響は確実に表れている。宮崎は「どのチームも選手たちがモチベーションを上げて、スキルも上がってきている」とコート上でその影響を実感。その中で自身のレベルアップを期することはもちろんだが、宮崎はバスケット界全体が盛り上がり、発展していくことも意識している。
「リーグのレベルが上がっているのは、お客さんにとってはすごく楽しいことだと思いますし、私たちもライバル同士ですごく楽しくやっているので、これからもバスケット界がもっともっとレベルを上げていって、金メダルが取れるような選手がたくさん出てきてくれたらと思います」
トップスピードで駆け回り、常にシュートを狙いながらアシストも量産するコートビジョンを持つ日本代表ポイントガードは、自チームの勝利や自らの活躍と同等か、あるいはそれ以上にバスケット界全体を見渡す、コート外のビジョンも持ち合わせる。そんな宮崎は、オリンピックをともに戦った仲間がメディア露出を急増させている現状も、どこか客観視しているように見受けられる。失礼な言い方かもしれないが、これほど目立つプレースタイルのわりに彼女はさほど目立ちたがり屋ではない。
「自分もTVとかに呼んでいただけたらそれはすごく嬉しいんですけど、『私が、私が』というのはそんなにはないです(笑)。ただ、SNSなどを通して私のこともたくさん知っていただけたら嬉しいです、『こんな選手もいるんだ』って」
オリンピックを経た今シーズンは、改めて自身の存在価値を証明するシーズン。様々な想いを抱え、その中には葛藤も少なからずあるはずだが、コートに立つ宮崎はそんな素振りも見せず「笑顔で頑張りたい」と語る。そのマインドこそが、宮崎早織というトッププレーヤーの最大の存在価値なのかもしれない。
文 吉川哲彦
写真 W LEAGUE(写真は3月5日富士通戦のもの)