藤本の場合、宮澤と中村の加入がその意識をより高めている。リバウンドが強い2人の加入は、チームの弱点を補う的確な補強であったと同時に、藤本にとっては自身のプレータイムを左右する大きな要素。「リーダーシップを発揮してくれている」と頼もしさを感じつつ、危機感に近い感情も募らせている。
「ガッツリポジションが被るので、もう刺激しかないです。昨シーズンはインサイドがオコエと自分しかいなかったので必然的に試合に出ることもできたんですけど、2人が入ってきて毎日の練習の中でもポジション争いがすごいですし、そこで埋もれて負けたくないという想いで練習中からバチバチやっています」
刺激という点では、ENEOSでプレーする妹・愛瑚の存在も忘れてはならない。一足先に高卒でWリーグの舞台に立ち、常勝軍団で一定のプレータイムも確保していることを意識しないはずがない。人によっては劣等感にさいなまれてもおかしくない、そんな状況でもある。
しかし、藤本には両親という何よりも心強い後ろ盾がある。父はプロ野球選手、母はオリンピック出場経験もあるバレーボール選手という、いずれもトップレベルを知る元アスリート。藤本は「両親が心の支えになっているか」という問いに「かなり!」と力を入れて答えてくれた。
「自分が悔しい想いを感じているときに、それを汲み取ってくれるんです。普通だったらとにかく『頑張れ』という感じになると思うんですけど、『今は我慢しろ、くさるな』とか『自分にできることを頑張りなさい』ってアドバイスしてくれるので、スポーツをやっていた親を持って本当に良かったなと思います」
繰り返しになるが、チームはここまで16戦全勝。第9週を終えた時点で、デンソーとともにプレーオフ進出が決定した。ここからの戦いぶりが重要であることは言うまでもないが、富士通の場合はここまでの対戦相手が全て昨シーズンの順位で富士通よりも下のチーム。対戦を残している4チームは順に三菱電機、デンソー、トヨタ自動車、ENEOSとまさにここからが本当の勝負だ。
藤本は「宮澤さんと中村さんが来てリバウンドは強くなったと思うんですけど、まだ波がある。どんな相手でも本数で勝つというのはマストで、あとは大事なところのシュートの決定率が勝敗を分けると思います」と冷静に分析。その中で、自身も信頼を勝ち取り、チームに良い影響をもたらしたいという決意を示す。一皮むけた藤本の姿がプレーオフで見られることを期待してやまない。
「大事なゲームのときに出られるメンバーは限られると思うんですけど、今日の試合のように少しでも出してもらったときに結果を残して、積み重ねていきたいです。自分のプレーでチームに勢いがついたり、勝利に貢献できるようになりたいなと思っています」
文 吉川哲彦
写真 W LEAGUE(2021年11月)