昨シーズンのWリーグ覇者であるトヨタ自動車を富士通が撃破し、準決勝ではその富士通をデンソーが破った。Wリーグに続いて歴史が変わるかとも思われたが、その牙城はそう簡単には崩れなかった。第88回皇后杯・全日本バスケットボール選手権大会は、ENEOSサンフラワーズが史上初の9連覇を達成して幕を閉じた。第1クォーターこそ20-19とデンソーに食らいつかれたが、その後の試合運びは盤石だった。
後世の人が日本女子バスケ界の歴史を紐解いたとき、おそらく多くの人が21世紀初頭はENEOS無敵の時代だったと認識するだろう。それは確かに間違いではなく、時代を代表する選手を数多く揃えていたことも確かなのだが、単に実力者を集めた結果にすぎないなどということは断じてない。連覇の難しさを最もよく知り、そのプレッシャーと戦い続けてきたのがENEOSであり、この1年間に限って言えば、ENEOSが逆境にさらされてきたことは今を生きるバスケファンの多くが知るところだ。
その逆境の最たるものが、前回大会での渡嘉敷来夢の負傷であることは言うまでもない。ただ、その第87回大会のファイナルラウンドは林咲希、高田静、梅沢カディシャ樹奈など多くの選手が故障で欠場を強いられた状態で臨んでいた。渡嘉敷の負傷以前の時点で、ENEOSは半ば野戦病院と化していたのである。3試合で合計47秒しかベンチに下がらなかった岡本彩也花や、準決勝でトリプルダブルを達成した宮崎早織らの活躍で見事に8連覇を成し遂げて見せたのは、“絶対女王” の称号をほしいままにしてきたプライドの為せる業だったであろう。
しかし、Wリーグではトヨタ自動車に屈し、記録更新中だった連覇が11でストップ。オフの間には、3度の皇后杯MVPなど渡嘉敷に引けを取らない実績を持つ宮澤夕貴が富士通に移籍するという出来事もあった。他チームの補強の様子などを見ても今シーズンは混戦が予想され、Wリーグファンの間でもENEOS一強という勢力図のイメージは薄れてきたに違いない。
そんな状況を打破し、ENEOSを頂点に導いたのは他ならぬ昨シーズンの故障者たちだった。大会MVPに輝いたのは、決勝での5本を含めて3試合で12本の3ポイントを炸裂させた林。梅沢は3試合で43本ものリバウンドを荒稼ぎし、宮崎のバックアップを務めた高田は決勝でその宮崎よりも9分以上長くコートに立った。3試合、計70得点の渡嘉敷も含め、8連覇を決めた1年前の決勝でコートに立てなかった4人全員が今大会の決勝で2ケタ得点をマークしている。
渡嘉敷はもとより、今夏の東京オリンピック銀メダルとアジアカップ5連覇に大きく貢献した林に関しても、その実績を考えればもはや貫禄の働きと言っていいだろう。特筆すべきは大卒3年目、25歳の高田と高卒5年目、23歳の梅沢の存在だ。これまでも一定の活躍を見せてきた2人ではあるが、今大会はそのポテンシャルを余すところなく証明する機会となった感がある。