「ほとんどいない、という状況が今はあります。(競技)人口的には半々くらいらしいのですが、指導者となると、8:2くらいに一気に女性が減ってしまうと聞いています。トップリーグでプレーしている女子選手で、引退後にコーチをしてる人はほとんどいないようです。」
その理由の一つについても、藤岡は極めて明快に話してくれた。
「だいたい、女子の場合は高校を卒業して、そのままプロや実業団に入る選手がほとんどです。その影響もあって、なにも資格などを持っていない選手が多い。選手を辞めたあとに『行くところがない』という感じで、セカンドキャリアに困っている選手がすごく多いです。」
大抵の男子選手は大卒だ。
なにを志すかはもちろん本人次第だが、そこで教員免許を取得し、引退後に指導者の道を歩むための土台を固めることもできる。
個人的には「保険」のような感覚で教員免許を取り、他にやれることがないから教師になる選択は教育者としていかがなものかと思うが、実際には僕もその可能性に備えて教職課程を受けた。
結局、僕は「先生」に目覚めることがなかったためにその道を選ばなかったが、やりたいと思い立ったときに選択肢があるかないかで、人生は大きく変化するだろう。
そしてその選択肢は、大学に進学しなければ持つことすら許されない。
「女子は高卒でプロ」を当たり前として認識しすぎていたために、わかっていたようでわかっていなかった根本的な問題を、改めて気づかされた。
業界全体が抱える問題に向き合い、解決のために奔走する彼女の社会的貢献には感心するばかりである。予告もなしに選手を辞めたかと思ったら、急に珈琲を淹れ出したおっさんとはえらい違いだ。
だが拠点を2つ持ち、長距離の移動を繰り返しながらの活動は相当キツいものがあるのではないだろうか。
練習や試合の後は、寝転がってゲームする気力しか残っていなかった僕からすると、想像を絶するハードスケジュールである。
藤岡が感じる身体的及び精神的な疲労感は、他の選手の比ではないはずだ。
「自分は辞める前の4年間はENEOSに所属していましたが、正直、そのときよりは今の方が、すごくフレッシュな精神状態でいられています。大変ですが、プレーヤーとしてもコーチとしても、バスケットを楽しめている実感があります。」
バスケット好きすぎるやろ。
大空翼くんか。
移動の新幹線でドリブルとかしてないやろうな。
でもやっぱりそれは、双方の仕事が応じ合う側面もあるからなのだろうか。
一方に注力した結果、他方の能力向上につながるような、そんな関係性にある2つが彼女をより大きくしているのかもしれない。
藤岡コーチが、藤岡選手にもたらすもの。
「コーチをしていると、プレーを俯瞰的に見れるというか…。所属チームの練習を休んでコーチングに行かせてもらってはいますが、脳はちゃんとバスケットの頭で活動しているので、それはプレーヤーをする上でも生きてるなと思います。」
藤岡選手が、藤岡コーチにもたらすもの。
「今のシャンソンと、自分が教えている高校のスタイルはマッチするところが多くあります。高校の監督さんからも『いいものがあったらどんどん取り入れたい』と言ってくださっているので、シャンソンの練習をそのままやったりしています。そういうのはすごくリアルタイムに還元できるのでいいなと思っています。」
プレーヤーとして、コーチとして、そしてパイオニアとしての性質を兼ね備えた「藤岡」という概念が、女子バスケットボールにこれからなにをもたらしてくれるのだろうか。
文 石崎巧
写真 W LEAGUE