ハイブリッドボーラー
「引退したのち、復帰」
そう聞くと僕などは、未だに「どの師匠に弟子入りしてきたのかな?」と思わずにはいられないのだが、もちろん藤岡麻菜美は真打を目指したわけではない。
しかし彼女は、母校(千葉英和高校)の監督を始めとした様々な人々のもとで学び、気付き、ひとまわり大きな存在となって帰ってきた。
先に白状しておくと、僕は藤岡麻菜美という選手をあまり知らなかった。
コーヒーを淹れたり写真を撮ったり文章を書いたりに忙しく、合間にちょこっとバスケットするような生活をしてた身であったので、女子界隈の情報にまるで頓着してこなかったのだ。
だが取材の打診を受けたのを機に彼女について調べてみたところ、意外な事実に突き当たる。
「ちょっと…似てるのかもしれない」
なぜ、選手とコーチの活動を並行させているのか。
しかも、自分の所属するチームではなく、遠く離れた母校で教えているのである。
そうなった経緯については他の媒体にも語ってくれており、その説明だけでも彼女の責任感の強さや好奇心あふれる性格が垣間見えた。
だが僕が知りたかったのは、その選択が彼女になにをもたらすのか、だった。
彼女の掲げる「デュアルキャリア」を歩んだ先で、成し遂げたいものはなんなのだろうか。
「今、女子バスケットボール選手のセカンドキャリアに問題があります。引退したあとは、ほとんどバスケットには関わらないで、就職もできないで、宙ぶらりんで、という選手がすごく多いと聞きました。世界の中では男子に比べて女子の方が、今はバスケットボール的にレベルが高いところにいます。そういう中で、いろんな経験をした女子のプレーヤーがコーチングに還元できるような環境が必要だと思います。ですがプレーヤーを辞めて、いきなりコーチとなると、とっつきにくいというか、『いや、いきなり自分は教えられないよ』という声も聞いたことがあるので。だったら自分のように、例えば高校とW(リーグ)ではなくても、W(リーグ)の中で選手をやりながらコーチをやったり、という選択肢もあっていい。そういったどんな形でもいいので、プレーヤーをやりながらコーチ、Bリーグでは結構あると思いますが、そういうのを当たり前にしていきたい。そんな環境を作っていけたら、その先駆者になりたいな、と思っています。」
アスリートのセカンドキャリア問題は、競技を問わず話題に上ることが少なくない。
しかしそのなかでも取り分け、女子バスケットボール選手の状況は他と比べても芳しくないようだ。
藤岡が言うように、男子選手が引退してそのままコーチングスタッフになるケースは珍しくない。
もちろん限られた枠ではあるので誰もがなれるわけではないが、一般的な就職先であるといっても差し支えはなさそうだ。
それに比べれば、女子のヘッドコーチやアシスタントコーチは、ほとんど見かけることがない。
それが例え女子のチームであろうと。