アスリートにケガはつきものとはいえ、昨シーズンの日本バスケット界は大ケガに見舞われた選手がとりわけ多かった印象がある。Wリーグに関して言えば、その筆頭に挙げられるのはやはり渡嘉敷来夢(ENEOSサンフラワーズ)。昨年12月の試合中に右膝前十字靭帯断裂を負った渡嘉敷は、今夏の代表活動にもギリギリまで参加したものの、結局は東京オリンピック出場を断念せざるを得なかった。試合会場が地元・埼玉県だったこともあり、日本のエースと目されて並々ならぬ決意で大会を心待ちにしていた渡嘉敷のショックは計り知れない。
そんな渡嘉敷が、10月に幕を開けたWリーグの舞台に戻ってきた。同23日に行われた山梨クィーンビーズとの開幕戦、渡嘉敷はスタートで出ただけでなく、35分5秒もコートに立って35得点を叩き出した。翌24日の同カードも28分2秒出場で23得点15リバウンド。復帰早々にエンジン全開である。
同30日の東京羽田ヴィッキーズ戦では、第2クォーター残り1分1秒にリングに挟まったボールをジャンプ一発で弾き出す場面もあった。Wリーグでこれができるのはごく一部の選手だけ。かつては試合前のアップでダンクも披露していた渡嘉敷ならではの光景と言っていいが、これも膝の不安がなくなったからこそできることだ。
「ダンクはしてないですけどジャンプは問題ないですし、自分1人で動いている分には全然怖くないです。対人になると相手の動きによって気になるときもありますけど、基本的にはケガする前と同じようにできていると思います。みんなも容赦なくパスを出してくれる(笑)。あとは、10カ月間で失われたゲーム感覚を取り戻すだけで、コーチもそこを踏まえてゲームに出してくれていると願ってます」
昨シーズンまでの渡嘉敷は試合終盤にお役御免となり、コートに立つ若手をベンチで応援することも多かった。盤石の強さを誇ったENEOSの試合運びがそうさせたのだが、今シーズンは東京羽田との2試合も第1戦は35分33秒でチーム最長。開幕早々でチームの完成度がまだ十分でなく、4点差と冷や汗をかいた山梨との第1戦に象徴されるように、ある程度は渡嘉敷に頼らざるを得ない状況だ。それでも、渡嘉敷自身は身体面に全く問題はないと胸を張る。
「たぶんこんなに出る予定ではなかったと思います(笑)。ケガ人が多くてチームを作ることができていなかったので、それでこういうゲーム展開になっているところがあります。でも私自身は、体は全然大丈夫なので」
東日本大震災でプレーオフが中止となったルーキーイヤーも含め、全てのシーズンでリーグの頂点に立ってきた渡嘉敷にとって、トヨタ自動車アンテロープスにタイトルを奪われて12連覇を逃した昨シーズンの苦い想いは、今シーズンに向けたこの上ないモチベーション。特にチームメートに対する感謝の気持ちは、今まで以上にパフォーマンスに反映されることになるだろう。
「自分がいなくて昨シーズンのリーグ戦は負けているので、責任は感じてます。今シーズンは自分がいて負けるわけにはいかないですし、昨シーズン苦しい中でも戦ってくれたチームメートの姿を見て自分も頑張らなきゃいけないと思ったので、みんなへの恩返しをしっかりコートで表現したいと思います」