大沼が貢献できるのは、むろんシュートだけではない。
シャンソン化粧品のチームメイトを見ていて、パスの雑さと、ここ一本のルーズボールや、トランジションでの走り出しのタイミングが気になったと大沼は言う。それらの弱点はまさに、現役復帰を果たした藤岡麻菜美と、大沼の真骨頂でもある。藤岡のパスと、大沼の泥臭いプレー。まさにチームにとって最適の移籍だった。
「ENEOSはそういった細かいところを一番大事にしていたんです。(そこにいた)私も麻菜美も勝つために大事なことを知っているから、少しずつみんなに話していけたらいいなとは思っています」
9月上旬におこなわれたWリーグの「オータムカップ」では1勝2敗だった。Aブロックの4チーム中3位。敗れた2戦はいずれも一桁差である。
いい試合だった。しかし、と大沼は釘を刺す。
「オータムカップでいい試合はしたけど、結果として僅差で負けるのは何かが足りないから。そういうのはリーグの結果にも出ちゃうのかなって。やはり若くて、勝ちを経験している子たちが少ないから、いかにみんなが同じ気持ちになれるかだと思います」
今シーズンのチーム目標は、3シーズン遠のいているベスト4に入ること。しかし勝ち慣れていないチームメイトがどこまでそれを本気で捉えているか。
ENEOS時代は単に「2冠を獲る」のではなく、「何が何でも2冠を獲る!」という貪欲なまでの覚悟が、勝っても、勝っても、チームのなかから噴き出していた。それが1つになることで “王朝” を築いてきたと言ってもいい。
一方で、大沼の在籍最終年となった昨シーズン、ゲームには勝っていたがルーズボールを追わない選手がいた。経験の少ない若手だったが、ベンチにいた大沼は泣きながら「なんで追わないの!?」と大声を上げた。もしかしたら、そうしたところにENEOSの連覇を途絶えた要因はあったのかもしれない。
それくらい勝利への追求は奥深い。それを大沼は自らの体験で知り得ている。目標に対して、どこまで気持ちをひとつに向けられるか。
「『練習はキツイけど、それに耐える』みたいなときもあったけど、単純に厳しい練習を乗り越えるということじゃなくて、ベスト4に向けて何が必要なのか、何が大事なのか。一人ひとりがどういう役割をして、チームにどう貢献するか。そこまで一人ひとりが理解してきたら、もっといいところまでいけるのかなと思いますね」
これまでとは違う自分を楽しんで(後編)「きついけど、楽しいです!」 へ続く
文 三上太
写真 W LEAGUE