後がないデンソーは、高さを生かしインサイドから点差を詰める。第4クォーター残り1分4秒、髙田真希がフリースローをしっかりと決め、69-67と2点差に追い上げる。何度もチャンスはあった。この終盤までチームファウルが1つだったENEOSは、そのファウルを使って相手を止めて時間を進める。残り6.7秒、2度のタイムアウトの末、デンソーはサイドスローインからラストチャンスに賭ける。近藤楓を投入し、逆転3ポイントシュートを想定していたかと思われた。しかし、マリーナ・マルコヴィッチヘッドコーチは「とにかくゴールに近いところにボールを運ぶこと。いつも通りの自分たちのプレーをすることだけを伝えた」。
作戦通り、ゴール下の髙田にボールが入る。「自分が決める気持ちを持っていた」髙田だったが、宮澤夕貴に阻まれる。69-67のままENEOSが逃げ切り、勝利をつかんだ。 「この2試合ともチームを勝たせることができず、申し訳ない気持ちでいっぱいです」と自責の念に駆られる髙田だったが、マルコヴィッチヘッドコーチは「次の機会には必ず決めてくれると信じている」と来シーズンでのリベンジを誓った。
「希望と感動と勇気と愛を広めていきたい」中村優花
初戦を勝ち切ったあと、梅嵜ヘッドコーチは「最後は選手たちに託し、女王の意地を見せてくれた」と称えた。その言葉どおり、セミファイナルの勝敗を分けたのは勝利への執念とともに、ゲームを楽しむ余裕だったように感じる。トヨタ自動車は、試合前も試合中のベンチも選手自身が活気を与え、良い流れを作っていた。
ENEOSは高さのアドバンテージがあるからこそ、強くて当たり前と思われている。だが、デンソーやファイナルで対戦するトヨタ自動車よりも今は小さい。それでも皇后杯ではトヨタ自動車を破って、一つ目のタイトルを手に入れた。その後のレギュラーシーズンも東地区を制している。178cmでインサイドを任される中村優花は、「皇后杯から今まで、ENEOSの2センターがいる大きなスタイルに当てはまっている選手がいないし、今はみんな小さい。その中で展開するバスケは、今いる私たちにしか表せない」とポジティブに捉え、コート上で結果を残している。中村はファイナルへ向け、さらなる前向きなコメントを述べた。
「勝たなければいけないなどいろんなプレッシャーもあるけど、みんなが大好きなバスケを楽しんで、私たちのプレーを見てくれる人たちにいろんなものを与えたいというのが自分のモットーでもあります。ファイナルでもそれを全開に出して、日本のバスケ界に希望と感動と勇気と愛を広めていきたい。がんばります!」
満身創痍のENEOSが女王の意地を見せて12連覇を果たすか、はたまた豊富な戦力を誇るトヨタ自動車が初優勝を成し遂げるか ── ニューヒロインが誕生しそうな予感がするクライマックスは見逃せない!
文 泉誠一
写真 W LEAGUE