彼女は今、リーグを代表する選手へと成長している。
移籍したばかりにも関わらず、すでに日立ハイテクの“顔”のひとりにもなっている。
自らの眼力のなさを詫びながら、どう生き抜いてきたのかを聞いた。
すると彼女は、自らへの評価をしっかりと語ってくれた。そこにはやはりというべきか、丁氏の存在がある。一方で谷村自身のプライドも色濃くにじんでいた。
「自分は頭を使うことかなって思っているんです。走るのも速いわけじゃないし、高く飛べるわけでもない。ウイングスパンなんてすごく短いんです。一般的には身長より少し長いのが普通だと思うんですけど、私は身長の185センチに対して、ウイングスパンが175センチくらい。10センチも短いんです。でも小さいときからバスケットを見ることが好きで、高校生くらいからは考えながらバスケットをしていました。シャンソンで丁さんに出会ってからはディフェンスを見ること……相手の動きによってだますことや動きの緩急、一歩の差に至るまで細かく教わりました。そうしてディフェンスがこのポジションにいたら、次にどう動こうっていう選択肢を常に3~4個持つようになったんです。答えは1つじゃない。状況に応じて出す技もたくさん教えてもらったので、それを今も磨き続けているところです。それが平均以下なものをうまく平均以上に引き上げているんじゃないかな」
スプリント勝負をすれば、勝てない。
ジャンプ勝負でも、勝てない。
そうした身体能力の差を考え方や知識でカバーしようと考えたのである。
一見しただけでは、谷村の凄みはわからない。
簡単に言ってしまえば、地味なプレーヤーである。
でも気づけば、どんな相手であっても、的確な判断で得点に絡んでいる。自らの得点だけでない。スクリーンやスペーシングなど、記録には残らないところでも、である。
「でも知識や考えを持っているだけじゃダメなんです。その分、3ポイントシュートも練習したし、ローポストのプレーも必死に練習しました。ピックからダイブしたときも、ジャンプシュートが打てるのか、相手がどれくらい下がっていたらドリブルを使ってアタックしていくのかっていうことまで細かく教わりました。そういうことを身につけるために必死に頑張ったことが今……まだまだ全然満足していないですけど、何もなかった1年目のプレータイム5分くらいのところから、今のところまで来られたんじゃないかと思います」