理由はそれだけではないのだが、上記のとおりデンソーは開幕戦を落としている。しかしそこですぐに気持ちを切り替え、考えを整理できるところが本川の経験値の高さである。
どんなシステムであれ、まずは自分らしくプレーして、そこからのオプションを自分なりに作っていく。デンソーには才能豊かな選手たちが多い分、積極的なペイントアタックをすれば、チームメイトも必ずそれに合わせてくれるはずだ。それを信じられるかどうかは、自分次第である。そのことに気が付いた。
それだけではない。
「今までだったら私がドライブをして、シュートに行かなきゃ、ファウルをもらわなきゃって思っていたし、そこで2人、3人とディフェンスが寄って来たら、アシストに回らなきゃって思っていたんです。デンソーではそれをしなくても、自分にノーマークの3ポイントシュートのチャンスが生まれるんです。ビックリしちゃって……ノーマークなのに全然入らないんです(笑)」
これまでは攻撃の起点であり、フィニッシャーであった。すべてを任される立場にいたが、今はアシストのできるポイントガードがいて、同じようにアウトサイドからアタックできるウイングがいる。ペイントエリアを見ればビッグマンが2人もいる。極論を言えば、止まっていてもノーマークになることもある。
であるならば、これまで以上に自分のプレーをのびのびと出すだけである。むしろ、ある種の呪縛から解放されたと言ってもいい。
「タイミング的にも来年東京オリンピックがあるし、レベルアップしたいという気持ちから移籍をしたわけだけど、だからこそ前よりもっともっと進化した自分になることが今の理想です。周りからは『リオ五輪のときが一番よかった』って言われるので、それを越えられたらいいなって思っています」
課題は明確だ。
いかに3ポイントシュートの確率を上げていくか。
しかし多くのファンが見てきた「本川紗奈生」像を崩すつもりはない。強気な姿勢でゴールにアタックしていくスタイルは、どんなバスケットであれ継続していく。
常に全力。常に100%。
「ただデンソーに移籍してマインドが変わったところもあります。シャンソン(化粧品シャンソンⅤマジック)にいたときは常に得点を取ることを考えていて、それがやりがいでもありました。とにかく数字に残すことがすごく大事だったんです。デンソーでももちろん得点は意識していきたいですけど、数字に残らないところでも貢献できたらなと思っています。チームのために裏方に回るときがあってもいいんじゃないかなって。ディフェンスで貢献するとか、リバウンドに絡むとか。でもそれは謙虚になるとか、弱気になったとかではなく、チームとして自分ができることを考えたときに、そこに行きついたんです」
進化である。
エースの座を投げうってもなお輝く場所はある。
デンソーアイリス #6 本川紗奈生
エースの座を投げうってもなお
【前編】 https://bbspirits.com/wleague/w20100801/
【後編】 https://bbspirits.com/wleague/w20100901/
文 三上太
写真 W LEAGUE
画像 バスケットボールスピリッツ