「私はガードをやりたいんです」
はっきりとそう告げ、アウトサイドでプレーをし続けた。
コーチの指示さえも撥ねつける強い意思はそのころから発揮されていた。
「あのときはね、学校でインサイドもアウトサイドも両方やっていて、でもせっかくトップエンデバーに参加させてもらえるならガードを教えてほしいし、身につけたいと思っていたんです。あのころから将来はWリーグでプレーしたい、日本代表でプレーしたいと考えていたから、そのためにはガードもできることをアピールしなきゃいけない。そういうところばかり考えていたんです」
あれから13年、本川はチームの“顔”という名誉を投げうってでも、優勝したいし、自分をレベルアップさせたいという強い意思を貫いた。
「人生は一度きりだから、後悔したくない。『シャンソンでもう1年やってみたら?』とも言われたけど、その1年をより大事に使いたいと思ったんです」
なぜデンソーだったのか。
シャンソン化粧品にいるときからデンソーは「いいチームだと思っていたし、気になるチーム」ではあった。移籍希望を出した後での話し合いでもデンソーの熱意に触れ、エースでキャプテンの髙田の優勝に懸ける思いにも同調した。そこがデンソーに決めた一番のポイントだと認める。
しかしデンソーには赤穂ひまわりがいる。女子日本代表で同じポジションを争う、身体能力が高く、急速に実力を伸ばしてきている若手の筆頭だ。結果的には今シーズンが開幕すると、本川は赤穂とともにスタメン起用されているのだが、起用の仕方によってはスタメン落ちだってあったかもしれない。エースからベンチへ。そんなリスクもあったはずだ。
「ひまわりの存在が引っ掛かることはまったくなかったです。むしろ一緒にやりたかった。逆にそういう子と毎日一緒に練習をしたら、自分のためになるんじゃないかなって。実は代表の練習中にブロックされたことがあるんですね。『ヤバッ』って思いました(笑)。練習中にブロックされたことなんてなかったから。そんなひまわりの能力だったり、他の選手の能力も本当に高いので、そこに自分が入ったときにどれだけできるのかって考えたら、逆にワクワクしてきたんですよ。確かにひまわりとは代表でもポジションを争うけど、デンソーでももっとバチバチやって、日本代表でもそのレベルでやれたら、自分としても、チームとしてもよりよくなるんじゃないかって」
あえて厳しい道を選ぶことで、自身はもちろんのこと、デンソーアイリスというチームも、女子日本代表というチームも、すべてがレベルアップできるんじゃないか。「1強」とも呼ばれるリーグの現状を打破し、公言している東京オリンピックでの金メダル獲得にもつながるんじゃないか。
移籍は個人の判断から始まる。本川自身が優勝したかったし、本川自身がよりレベルアップをしたいと考え、決断した。もちろんデンソーにとっても大きな戦力補強となる。しかしそれだけではない。Wリーグをより活性化させ、日本代表をステップアップさせる要素が見え隠れしているところに、この移籍の興味深さはある。
文 三上太
写真 W LEAGUE
画像 バスケットボールスピリッツ