「チームが私の引退を発表した直後にリツさん(髙田)からLINEが来たんです。ちょうど美容院に行っているときで、たまたまスマホを見たらリツさんからLINEが届いていた。『噂には聞いていたけど、引退するのはビックリした』って。そのやりとりのなかでリツさんが『自分はまたネオ(藤岡)と一緒にバスケットがしたい』って言ってくれたんですね。すごくうれしくて……普段あまりLINEをする間柄でもないし、でも自分としてはプレーですごく合う選手で、日本代表でも一緒にプレーするのがすごく楽しかったんです。その気持ちは私の一方通行だと思っていたのに、そんなリツさんから一緒にプレーしたいって言われたわけです。でも『引退するって決めましたし、次の仕事も見つかっているんです』って送ったら、『それでも私はネオと一緒にパリオリンピックを目指したいって勝手に思っているよ』って戻ってきた。その瞬間、鳥肌が立ちました。そして初めて気持ちが動いたんです。誰に言われてもみじんも動かなかった気持ちがリツさんのその言葉で少しだけ動いたんです。リツさん、遅いよ~って思いました(笑)」
もし髙田が藤岡の引退を噂レベルで聞いたときに声をかけていれば、どうなっていただろう。尊敬する選手とプレーできるのであれば、藤岡ももう一度自分の気持ちを奮い立たせたかもしれない。
しかし実際に声を掛けてきたのは引退を決断し、チームの発表があった後だ。
これもまた自分が導かれる運命だ。藤岡はそう考えている。
取材の前日、藤岡は髙田との対談をウェブで配信している。そこでも髙田から「復帰を待っているよ」と声をかけられた。
「人の気持ちって100%っていうことは絶対にないから、そのとき『100%の気持ちはないので、そのときの流れに身を任せて、もしやりたいと思ったらやります。でも今はそこまでやりたいという気持ちがないから』って言ったら、リツさんが『これはもう確信だな』って笑っていました。めっちゃうれしかったですね」
藤岡にとってバスケット人生で一番のハイライトは、髙田もまた自身のバスケット人生において最も印象に残るゲームの1つに数えるそれと重なる。
2017年のアジアカップ準決勝、中国との試合である。
予選ラウンドこそ吉田亜沙美のバックアップだった藤岡は、キレのあるクロスオーバーと正確なアシストで対戦国を圧倒していた。そして、吉田が負傷したことで、準決勝の中国戦から藤岡はスタメンで起用されることになる。