「私たちが生きているのは真剣勝負の世界だからなおさらだけど、人って負けたらこのままじゃダメだっていろいろ変えると思うんです。でもJX-ENEOSにはそれがありませんでした。コロナで終えた今シーズンを抜きにすれば、11年連続で勝ち続けているから、このままでいいだろうという考え方がチームのなかにも、その周辺にも多いんです。辞めた私が言うのは無責任だとわかっていますが、JX-ENEOSはこのあたりで優勝以外の結果、たとえば2位という経験をしてもいいんじゃないかって思います。そうなることでJX-ENEOSがさらに強いチームに変われるのであれば、日本の女子バスケット界をより強くリードしていくチームになれるのであれば、けっして意味のないことにはならないと思うんです」
確かに無責任と言えなくもない。勝ち続けることの難しさを経験しながら、それでもチームを変えたいと思うのであれば、現役を続行し、チームのなかから立て直せばいい。それをせず、いわば“勝ち逃げ”のような形で去りながら、負けたほうがいいというのは無責任と捉えられてもおかしくない。
しかし藤岡はそれさえも理解したうえで、捨て台詞としてではなく、4年間の感謝の思いを込めて、苦言を呈しているのだ。
勝負の世界で生き残ろうと思えば、常に追求するのは「勝利」である。それを“結果”と呼ぶ者もいるが、藤岡にとっての“結果”はそれだけではない。たとえ負けたとしても、その過程で得られるものがあれば、それは勝利以上に価値のある“結果”だと言える。
もちろん勝利のためだけに心血を注ぎこむことを否定するつもりもない。そういう考え方、生き方もある。それを理解したうえで、藤岡自身は勝利を目指す過程にこそすべてがあると考えている。結果的に敗れたとしても、そこに残る何かがある。その何かが次の勝利に向けて大きな意味を持つと信じているわけだ。信念である。
藤岡が現役引退を決断したのは、“結果”というものに対する考え方の違いが大きな原因だったのである。
「私はずっと、バスケットでは選手個々の“考える力”が必要不可欠だと思ってきました。それはミニバスのときから『考えるバスケットをしなさい』って教わってきたからだし、考えたバスケットをすることで自分自身も充実感を得ることができていたからです。高校進学のとき、全国の強豪校から声を掛けられても、どこか監督にやらされているっていう感覚があって、それに馴染めなかった。だったら周りの子たちを巻き込んで、強豪校とは違う高校に行って、強豪校を倒したい。自分たちで考えるバスケットをやりたいっていう気持ちが強くあったんです」
カテゴリーが上がれば上がるほど、また競技レベルが上がれば上がるほど、フォーメーションなど覚えることも増えていく。強豪校の選手たちはそうした知識には長けているが、臨機応変に動くことができない。セオリーどおりにしか動けない。藤岡はそう見ていた。