通訳がそれを日本語で伝えたのを確認すると、彼はこう続けた。
「今、私は選手が失敗したときに怒ることがあります。そうしているときはまだいいんです。ミスをしたときに『どうでもいい』と思ったときに私は引退をしなければいけないと思っています」
ベンチ前で大きな体を揺すりながら叱咤するのはモンデーロとしての情熱の発露なのだ。そうした自分の姿さえ、彼は冷静に俯瞰している。
ではなぜ日本なのか。いや、スペイン代表のヘッドコーチを務め、国内でも結果を出した彼ならば、わざわざ国外(スペイン以外)に出なくても素晴らしいコーチ人生を全うできたのではないか。
その質問に対しても彼はスムーズに答えていく。
「私はプロバスケットのヘッドコーチをさせてもらっていますが、自分の好きなことを仕事にできることはとてもありがたいことです。実は毎年中国からオファーが来ています(笑)。その中国で4年、ロシアで3年コーチをし、日本(トヨタ自動車)でも同様な期間を指導していきたいと考えています。チームをどれだけ成長させられるか、どんなタイトルを獲れるのか、どんなスタイルを導入させられるか、どのようなアイデアを持たせられるか……私はそういった課題によって動く傾向が多いんです。自分自身に向けた課題ですね。またコーチの育成も私の課題のひとつです。かつて私のもとで3年間アシスタントコーチをしていたコーチが今ACB(スペイン男子プロバスケットボールリーグ)でヘッドコーチをしています。同じくアシスタントコーチをしていたビクトル・ラペーニャは今、トルコのフェネルバフチェ(女子)のヘッドコーチをしていますし、スペイン代表でも、中国でもずっとアシスタントコーチをしてくれていたセサル・ルペレスは今、中国の女子プロチームのヘッドコーチをしています。数年間、私のもとでアシスタントコーチとしてのキャリアを積み、私が育成できることによって、どこかのチームでヘッドコーチを務めていることは私自身にとっても誇りでもあるんです」
選手やチームを導くのと同様にコーチとしての自分を磨き、コーチとしての他者も磨く。結果だけではない挑戦こそが彼を世界各国のリーグへと誘っているのだろう。
最高の“チーム”を築くために ── ルーカス・モンデーロの情熱が薄れていくことは、まだまだなさそうだ。
この原稿を書いている、まさに2月26日。Wリーグは新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐべく、レギュラーシーズン残り3週(各チーム6試合)の開催中止を決定した。モンデーロ率いるトヨタ自動車はレギュラーシーズン2位でプレーオフに挑む。
トヨタ自動車アンテロープス ヘッドコーチ ルーカス・モンデーロ
最高の“チーム”を築くために
part1「世界トップクラスのヘッドコーチがやってきた!」
part2「日本は危ないチームだと思っている」
part3「オフェンスはディフェンスから始まる」
文 三上太
写真 吉田宗彦
【Bonus track】