チームとして成り立てば、おのずと個々が輝いてくる
モンデーロの考える「バスケット哲学」とはどういうものなのか。彼は2008年からU19を、2011年からA代表を指揮するようになったスペイン代表を例にこう教えてくれた。
「スペイン代表をみんなで作り上げていくためには国の“代表”というより、1つの“チーム”として成り立つようにしています。国の代表というと荷が重かったり、別のイメージを持ってしまいがちなので、それを“チーム”のような存在に築き上げています」
国の代表であることに必要以上の意味を持たせるのではなく、あくまでも1つのチームを全員で築いていく。コーチはそこへ導くだけだというのである。
「代表選手になった12人は国のユニフォームを着てプレーするので、彼女たちからは自分が優れているんだというエゴを感じることが多々あります。それも1人ではなく、12人が全員そう思っているんです。エゴを持つ選手が12人集まるとどういうことになるか。一般的にチーム内にそうした選手が1人でもいれば、その1人がすべてをやろうとしてしまうものです。しかし、そうした選手が12人集まってくるとチームとしては成り立たなくなってしまう。だから私はチームとしての強みを出すように求めています。チームがひとつになってやるべきことをやるよう、選手たちに求めているわけです」
エゴを持つことが悪いと言っているのではない。むしろ自らの力にプライドを持つ、自尊心を持つ選手でなければ世界で戦っていくことはできない。世界だけではなく、勝負の世界でも生き残れない。しかしそのいくつものエゴを1つのチームとして昇華させることができれば、おのずと強い芯のあるチームができあがる。
「柔らかい枝が1本なのと、12本まとまったものとでは堅さが異なりますよね。そのようなイメージです。そのうえでそれぞれがそれぞれの役割を果たしていくわけです。そうしたチームがチームとして成り立つためには、数年のプロセスが必要になります。エゴの強い選手も必要だけれども、度を超すほど強いエゴを持った選手が1人でも現れてしまうと、チームがそこから壊れてしまうので、そういった人格をチェックすることもいいチームを作るうえで必要になります」
そうした哲学は彼が本格的にコーチングの道に踏み出した22歳のときからずっと彼の根底にあった。もちろんうまくいかないときもあったが、そこだけはけっして揺るがなかった。
「バスケットはチームスポーツです。一人ひとりに役割がありますが、結局はチームなんです。チームで動かなければならない。そのなかで私は、選手それぞれが自分の引き受けている役割で幸せになってもらいたいと思っています。どの役割もすごく大事です。たとえばマイケル・ジョーダンがNBAでどれだけ得点を取っても、周りにグッドプレーヤーがいなければ絶対に負けていました。グッドプレーヤーがそろってから、彼が得点を取って勝てるようになりました。スコッティ・ピッペン、トニー・クーコッチ、デニス・ロッドマンなどです。一方でチーム内にグッドプレーヤーがそろっていたとしても、チームとして成り立っていなければ負けてしまいます。チームとして成り立ってきたら、それぞれの輝かしい部分が目立ってくるものです。そうしてチームが勝てるようになるのです」
個人のためにチームがあるのではなく、チームのために個人がいる。最高のチームとは、誰か一人が輝いているのではなく、全員がそれぞれの輝きを発している。時間はかかるかもしれないが、モンデーロはこれまでと同様に、トヨタ自動車をそんなチームにしようとしている。
part2「日本は危ないチームだと思っている」に続く
文 三上太
写真 吉田宗彦