インタビューは皇后杯のファイナルラウンドが始まる前日、JX-ENEOSの練習後におこなわれた。応接室に現れた吉田はすぐにヒザや足首などに氷をラッピングし始めた。アイシングである。年齢も重ね、2014年には大きなケガをし、さらに自ら空白の半年を作った体はけっして若いころのそれではない。疲労も残れば、痛みが長引くこともある。イメージ通りのプレーができないことも少なからずあるはずだ。
それでも吉田は純粋なまでに世界の頂点を目指していく。
どこのチームのヘッドコーチにも必要だと言われたいというのは、世界各国のヘッドコーチも含まれるのか。行くか行かないかは別として、世界中のヘッドコーチから認められたいというのことなのか。
インタビューの予定時間もややオーバーしていたので、最後にそう聞いてみた。
すると吉田はきっぱり「そう」と答えた。
書き起こせばたった2文字の答えだが、そこにはとてつもなく力強い意志が込められていた。
そして3秒間沈思し、吉田は言葉をつなげていく
「もう日本だけの視野じゃダメだと思っているから。トムが東京五輪で金メダルを獲ると言っているけど、トムはありえないことは絶対に言わないんです。可能性がなかったら絶対にそんなことを言わない人だから、金メダルを獲れるっていう自信があるんです。選手もその自信に乗っていかなければいけない。そうなったときに個々が成長しなければいけない……今までと一緒じゃ絶対にダメだから、日本のリーグで通用するのはもう当たり前だと思っているんです。ただ世界に出ていったときに『通用しませんでした』じゃ遅いから、やっぱり視野を世界に広げていかなきゃいけないんです。それこそ海外遠征に行ったときに、対戦国のヘッドコーチから『あのポイントガードいいね』って言ってもらえるくらいになっていかないと、金メダルなんて絶対に取れないと思っています。バスケットではポイントガードが主だっていう考えは私のなかで全然ブレていません。変わっていないからこそ、ポイントガードがしっかりしていないとどの国にも勝てないと思います。それくらいの意識でやっていかないとメダルなんて程遠いと思っているから、そういう意識を持ってプレーしていきたいと思います」
純粋さと力強さが相まった意志は、もはや国内に留まらず、世界に向けられている。その先に吉田亜沙美が描く理想のポイントガード像はある。
JX-ENEOSサンフラワーズ #12 吉田亜沙美
純粋なまでに、しかし力強く世界の頂を目指す
part1「ポイントガードの真価が問われるとき」
part2「キャプテンをやったことが大きかった」
part3「何をやっていいか、まったくわからなかった」
part4「引退、復帰、そして日本代表への再挑戦」
part5「やっぱり私はポイントガードが好きなんだなって」
part6「挑戦し続けるマインドセット」
文 三上太
写真 安井麻実