part4「引退、復帰、そして日本代表への再挑戦」より続く
やっぱり私はポイントガードが好きなんだなって
現役を退いていた半年のあいだに、吉田亜沙美はさまざまな経験をしている。日本バスケットボール協会のアンバサダーに就任し、男子アジアカップのドロワーも務めた。テレビ番組では車いすバスケットの有川美穂と対談し、車いすバスケットを体験したりもした。
そうした日々を送るなかでバスケットへの想いを再確認し、現役復帰を果たすわけだが、ポイントガードとしても感じることがあった。
「今までずっとバスケットを内側から見てきていたけど、現役を引退して、もうバスケットはしませんと言って外からバスケットを客観視したときに、やっぱりポイントガードって大事なんだなってすごく思ったんです。有川選手との対談でも思ったけど、バスケットって大きな括りのなかで見たときにパスを配るプレーができるってやっぱりすごいな……離れてみて、改めてポイントガードって楽しいんだなって感じられたんです」
そして吉田はこう吐露する。
「引退を決めたのはJX-ENEOSという常に優勝を求められるチームにいて、負けることが許されない、勝たなきゃいけない、勝ち続けなきゃいけないっていう重圧が苦しくなったところもあったんです。でも引退して、それ以上の喜びがポイントガードにはあることに気がついたんです。リバウンドを取ったセンターからパスをもらったポイントガードが、自分のワンパスで誰かがレイアップが決めてくれる。いやぁ、楽しいなぁってすごく思いましたよ。その感覚がよみがえってきたからこそ戻ってこられたというのもあるんです。やっぱり私はポイントガードが好きなんだなって」
日本代表に選出されると1年のうちに休みらしい休みはほとんどない。リーグのオフ期間には日本代表の活動があり、それを終えれば次のシーズンに向けて準備を始めなければならない。リーグが終わり、日本代表活動が始まるまでに1か月くらいのまとまった休みもなくはないのだが、気が休まることはない。
その意味で吉田にとってあの6カ月は心身をリセットするのに不可欠な時間だったとも言える。
だって足りないんだもん
もちろんその間に吉田の体力は間違いなく落ちていった。本人も現役復帰のときにまずそこを優先課題に挙げていたほどだ。
同時に世界のトレンドも大きく変わってきて、ポイントガードであれば得点力、特に3ポイントシュートの精度も求められるようになった。現在の日本代表の正ポイントガード、本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ)を見ても、それは明らかだ。
ただ吉田はそれよりも前から世界の変化に気づいていたと明かす。