この年のトヨタ自動車はヘッドコーチがイヴァン・トリノス(現アソシエイトヘッドコーチ)に替わり、新しいバスケットスタイルを取り入れる年でもあった。そうしたなかでケガの影響からパフォーマンスが上がらず、チームにもフィットできないもどかしさは近藤を苦しめた。しかし彼女はけっしてケガを言い訳にしない。
「イヴァンさんのバスケットに適応できなかったことは自分の課題だなと思っているんです。3ポイントシュートだけでなく、個人技をもっと磨くなど次のステップに行かなければいけないなと、そのシーズンを通じてすごく感じたんです」
この前向きさこそが、一度は引退を考えながら、移籍へとシフトチェンジする要因にもなっていく。
「今は移籍がしやすい状況になっていたので、考える時間が欲しいなと思って、まずは自由契約リストに載せてもらいました。引退も視野に入れて考えた中で、いろんな人と話をしているうちに、このままでは終われないなという気持ちになってきたんです。そして私自身がもう一度チャレンジしたいというか、新しい環境で一からスタートできないかなと思ったんです。あとどれくらい選手を続けられるかわからないですけど、新しい環境のなかで覚悟を持ってやりたいと思うようになって、移籍を決断しました」
前記のとおり、近藤は日本を代表するシューターのひとりである。出場した国際大会でも少ないチャンスをしっかりと結果に結びつけた実績がある。そんな近藤に対してのオファーは2チーム。そこからデンソーを選択した。
「デンソーのバスケットを見たときに私のいいところが生かせるんじゃないかなと思ったんです。またチームカラーというか、メンバーを見てもこのなかに入れそうだなというか、すごくまじめなイメージが強かったので、合うんじゃないかなと感じたんです」
こうして近藤は5シーズン在籍したトヨタ自動車から、同じ愛知県内にあるデンソーに籍を移した。2019年5月には痛めていた右ヒザの手術も無事に終え、インタビューした10月はまだリハビリの最中だった。
「予定では12月に復帰するつもりです。ちょうど11月は日本代表活動もあってWリーグが休みなので、順調にいけば12月からは完全復帰できると思います」
一度は引退も考えながら、移籍をすることで現役続行の道を選んだ。しかし今はまだ目の前にある大きな扉に手を掛けた状態で、それを開けてはいない。順調に回復していれば12月、覚悟を持って踏み出した近藤のリスタートが見られる。
part2へ続く
文 三上太
写真 吉田宗彦