アスリートにとってのケガは、競技人生を左右するほど重大な要素を含んでいる。デンソーアイリスに移籍した近藤楓にとってもそうだった。
これまでは大きなケガと無縁の競技人生を送ってきた。しかし2018年6月ごろに発症した右ヒザの痛みは、移籍へと向かう転換点として十分すぎるものだった。いや、むしろ移籍以上のことさえも考えたと彼女は明かす。
「昨シーズン(2018-2019シーズン)が終わったときに、ヒザの状態もあまりよくなかったので引退も少し考えたんです」
シーズンを終えた時点で近藤は27歳。医療やトレーニング、ケアの技術が格段に進歩した現代では、30歳を超えてもプレーを続ける女性アスリートは多い。しかも近藤はユニバーシアードで世界4位を経験し、リオデジャネイロオリンピックではシックスマンとして試合の流れを変えるシュートをいくつも沈めてきた。そんな日本を代表するシューターの一人が、ひそかに引退を考えていたというのだ。
「やはりヒザのケガが大きかったですね。私としてはシュートを打つにしても、やはり下半身を重視するというか、下半身を使ってプレーすることが多いんです。だからヒザを痛めてから、ストップシュートだったり、ストップからのターンシュートだったり、自分の持ち味が今までどおりうまくできなくなったんです。それまで痛みを抱えながらプレーをしたことがなくて、大きなケガもまったくなかったので、痛みを抱えながらプレーすることが私のなかで結構なストレスだったんです」
ヒザが痛み始めたのは、アジア競技大会に出場する女子日本代表の強化合宿がおこなわれていたとき。同時期にスペインで開催されるワールドカップの女子日本代表には招集されなかったが、それでも近藤はアジア競技大会への意欲を高めていた。しかしその大会の出場さえ断念せざるを得なくなった。いや、痛みに耐えて頑張れば、もしかしたらアジア大会でプレーすることはできたかもしれない。だがそれをしてしまえばWリーグでのプレーに支障が出る可能性もある。どちらを取るか。それぞれを天秤にかけ、近藤はWリーグ一本に絞ることにした。しかも手術はせず、痛みを抱えながらプレーする道を選んだのだ。しかし ── 。
Wリーグの2018-2019シーズン、近藤は全22試合中20試合に出場したが、そのすべてでベンチスタート。シーズンを終えた時点での1試合当たりの平均得点は2.75点。トヨタ自動車アンテロープスに入団して以来、最も低い数字だった。